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アーリスとの対決

リドリー視点に戻ります


 アーリスが半月刀をくるくると八の字に振るい、宙を裂く。瞬間、彼の体が分裂し、見分けのつかない三体の骸骨提督が現れる。さらに、その三体が刀を振り回すと、残像が軌跡を描くように広がり、無数の影が生まれた。


 ただの幻ではない――どれも実体を持っているように見える。


 奴は、刀の持つ膨大な魔力と剣技を組み合わせ、巧妙に幻影を操っているのだろうか? 高速で入れ替わり、本体の位置をわからなくする。


「お前が本物だろう?」


 俺の目は誤魔化せない。撃ち込みの姿勢から跳躍し、全力で斬り込んだ。

――手応えがない。

「……幻影か」


 空を切った刃は虚しく、勢い余って体勢を崩す。刀の魔力が確かに見えていた、確信があったのに、なぜ――。


 その刹那、周囲のアーリスが一斉に動いた。幻影たちは円を描くように俺を包囲し、瞬時に半月刀を振るう。


 連携が完璧だ。バラバラに攻めているわけではない。まるで一つの意思に支配された兵団のように、俺の逃げ場を封じながら襲いかかってくる。


 咄嗟に身をかわし、剣を弾きながら応戦する。だが、すべてを捌くには多すぎる。

――ザクリ。


 背中に鋭い痛みが走った。

 振り返ると、微かに光る半月刀の刃先が血を滴らせている。


「くっ……」 歯を食いしばり、間合いを取る。

「俺の防御魔力を貫くとは……しかも刀はどれも実体があるのか……」


 すぐさまヒールを唱える。だが、傷の痛みは引かない。むしろ、焼けるように疼く。


「これが……俺の力だ」

 アーリスの声が、無数の幻影の中から響く。

 影たちが一斉に笑った。嘲笑が空気を揺らし、骨のような音が不気味に鳴り響く。


 俺は、痛みで逆に冷静になった。全ての幻影の持つ刀の魔力は、同じなのだ。そして、どの骸骨にも何も感じない、いや、最初からそうだったのかもしれない。俺は自分の見極める力を信じる。


「ああ、わかった。そう言うことか!」

 静かに目を閉じる。かすかに聞こえる、海鳴りに紛れ、霧の奥から響く亡霊の囁き。


 霧の向こうから、大砲が鳴る音が聴こえてきた。もう一つの戦いが始まったのだろう。

 俺は、剣を持つ手に魔力を集中させる。俺の剣が次第に、魔力を帯びていくのがわかる。


「最初からこうするべきだったな」

 それからは、ただひたすら、くり出される三月刀を弾き、打ち返す。その間も、俺の体には傷ができる。痛みが更に鋭く突き刺さり、全身が震える。崩れ落ちそうになるのを耐える。


 長い長い撃ち合いだ。一瞬も気が抜けず、全身は傷ついていく。

 だんだんと、半月刀が、ボロボロになっていくのがわかる。それは、骸骨の持つ全ての刀が同じようになっている。少しずつ、ひびが入る。


 霧から聞こえる囁きは、大きくなり、悲鳴のようになった。半月刀の帯びている呪いの魔力が少しずつ消えていく。


「がちゃん」

 ついに、剣の半分は吹き飛び、次の撃ち合いでぼろぼろに崩れ落ちた。まるで砂のように。剣は柄の部分だけになった。


 濃霧が薄まり、アーリスの姿が一人、また一人と次々に消えていく。そして、最後の一人が残った。

 リドリーは深く息をつき、剣を納める。


「終わったな」

 その言葉が静かに甲板に響いた。

 アーリスは霧の中に消えていく自分の姿をじっと見つめ、絞り出すように呟く。


「解放されるのか……俺は……」

 その声が霧に溶けると同時に、アーリスの姿も完全に消えた。リドリーはただ、静かにその背を見送ることしかできなかった。


 そして——

「楽しい戦いだった……アクアリス、待たせたな」

 不意に響いた声に、リドリーの背筋がわずかに強張る。


 甲板にはもう誰の姿もないはずなのに——。


 ぴしゃ。魚が跳ねた音が、先ほど囁き声が聞こえた方角から響いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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