幽霊船
霧の中に薄らと灯りが浮かび上がる。船の漕ぐ音が遠くからかすかに響き、海はひっそりと静まり返っている。
それは、巨大な幽霊船だった。さらに、船団まで形成している。まるで死者の海を漂う亡霊のようだ。
風もないのに、巨大な帆がひとりでに膨らみ、船を進ませている。
その上には、骸骨兵が並んで立ち尽くしている。かつて人間だったのか、最初から魔物だったのか、それは誰にもわからない。ただ、今この瞬間、彼らは魔物として動いている。その事実だけが、戦う理由となる。
「ティア、船の動きを止められるか?」
今このまま進み続ければ、間違いなくレイラの船団と激突してしまう。それは、なんとしても避けなければならない。
「やはり戦いだな……悪いな」
ティアは冷たい氷雪を一気に吐き出す。その力は、アリジゴクや魔鳥との戦いとは一線を画していた。戦闘の中で感じる冷徹な力強さが違う。
「威力が……確実に増してないか?」
ティアの放った氷雪は、海面を覆い尽くし、幽霊船の動きを遅らせていった。そしてやがて、船は完全に止まった。
海面はすっかり氷で覆われ、まるで氷雪島のような異世界の景色が広がった。
「俺にもひと働きさせてくれ! そんな顔するなよ!」確かに、俺の魔力はまだ、半分も回復していないが。
ティアの高度を少し下げると、俺は迷わず船の帆柱に飛びついた。
すると、すぐに骸骨兵たちが俺を見つけ、帆柱の周りに群がってくる。
「まとめて片付けてやる! もっと集まってこいよ!」
俺は短剣を取り出し、帆を剥がしながら叫ぶ。骸骨兵たちは次々に登ってきて、俺を捕らえようとする。まるで甘い蜜に群がる蟻のように、数十体もの骸骨兵が必死に登り始めた。
「それじゃ戦えないぞ!」片足を浮かせ、しっかりと蹴りを放った。
「ドガッ!」
強烈な蹴りが一体の骸骨兵に直撃する。その衝撃で、骸骨兵の頭はふわりと宙を舞い、風に乗って弧を描くように船の外へ消えていった。体は甲板を跳ねながら転がり、ゴロゴロと滑り落ちていく。
次々に蹴りを放ち、目の前の骸骨兵を排除していく。しかし、数があまりにも多い。これでは、待っているティアにすべて片付けられてしまうだろう。
俺は、魔力を回して、高い帆柱から飛び降りた。そして、すかさず帆柱の根元に蹴りを入れる。
「ドン!」柱が折れ、氷の海に落ちて、大きな穴が開く。骸骨兵たちは次々と投げ出され、穴の空いた海の上で必死に柱に捕まる。まるで漂泊者のように、揺れる海面にしがみついていた。
だが、ティアが羽を広げ強風により、波間に沈み、藻屑となって静かに消え去った。
俺は、船の甲板に残っている僅かな骸骨兵どもを処分し終えた。弓を使う者もいたが、魔力の壁で難なく弾く事ができた。
その時になって、やっと船の中から、巨体が現れた。「やっとおでましか!」俺は呟いた。
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