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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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70/251

遭遇

 レイラの乗るコロサールの漁船の後ろには、ネグロクサ商会の護衛船が二艘、静かに波を裂いて進んでいた。

 

 そのうちの一艘、前を行く大型船の舳先には、大男のドラムが仁王立ちしている。荒々しい潮風に、彼は何も語らず、ただ前を睨み据えていた。まるで岩のような佇まい——彼もまた、海の男なのだろう。


「あら? きっと、スネアが呼んだのね!」 レイラは軽く笑いながら、海風を受けて髪をなびかせる。

 

 後方の護衛船では、スネアが甲板を忙しなく行き来し、次々と指示を飛ばしているようだ。彼の船が揺れるたびに体勢を崩し、舌打ちしながら足を踏ん張る姿は、まさに戦いの前の緊張をまとっていた。

 

 一方、船団の最後尾——クレオンの軍艦は、まるで大海を支配するかのように悠然と進む。

 高い甲板の上、クレオンは静かに立ち、沈む太陽を背にして海を見つめている。風を受けながらも、微動だにしない。彼女の船員は迷いなく、騒がず、混乱せず、ただ淡々と準備を整えていく。

 

 スネアの護衛船の喧騒とは対照的に、クレオンの軍艦はまるで静寂の中にあった。

 

船団は整然とした美しい一列を描きながら、静かに進む。だが、平穏は長くは続かなかった。


 ふと、俺は前方の空を見上げた。そこには——沈みゆく太陽に隠れて、黒い影が不吉に蠢いていた。影が波間にうごめき、耳障りな鳴き声が潮風に混じる。低く不快な響きが波の音を押しのけ、どこまでも広がっていく。


 やがて、それらの姿がはっきりと見えた。無数の黒い瞳がぎらつき、船団を獲物を狙い鋭く光る。

 だが、それを見逃すティアと俺ではなかった。


「ティア!」


 俺の声に応え、ティアが降下し姿を現す。


 そして——翼を大きく振るうと、空気が一瞬凪いだ。


 次の瞬間——爆発するような轟音とともに、凄まじい烈風が魔鳥の群れを薙ぎ払った。氷雪の息吹が、ドラゴンよりも冷たく鋭いものとして吹き荒れ——


「ギャアアア!」


 魔鳥たちは悲鳴を上げ、羽が無惨にちぎれ飛ぶ。波間に次々と叩きつけられ、水しぶきが宙に舞った。

 最後の一羽が海へ消えたとき、ティアは大きく翼を振り、誇り高く咆哮した。


 その声は、沈みゆく太陽とともに、海原へと響き渡る——


 各船の船員たちは驚愕し、一斉に空を仰いだ。


「守護神がついている——恐れることはない!」


 誰かが言ったその言葉に、船員たちは一斉に顔を上げ、空を見つめた。どこからともなく湧き上がる安心感が、彼らの心に広がっていく。レイラしか知らぬ旅路への恐れが消えた。


 ——だが、その直後だった。


 すべてが、暗闇に沈む。


 いつの間にか、霧が立ち込めていた。白い靄がゆらゆらと波間を這い、視界をゆっくりと奪っていく。

 その奥に、不穏な影が薄らと浮かび上がった。


 不気味な気配が、肌にまとわりつく。生暖かい空気が肺を満たし、まるで霧そのものが生きているかのようだった。


「こいつらは、任せておけ!」


 リドリーがティアの背に飛び乗る。


「ごめんね、リド、終わったらご馳走するわ!」


 レイラの声が霧の向こうから聞こえた。


「楽しみにしてる!」


 ティアが勢いよく翼をはためかせ、霧の中へ飛び込む。


「面舵、いっぱい! 霧を避けて進め!」


 レイラの指示が飛ぶと、漁船が大きく旋回した。その動きに続いて、護衛船も軍船も素早く舵を切り、船団全体が霧の縁をなぞるように迂回する。


 船首が波を切るたび、霧がゆらめき、白い靄の壁が崩れていく。霧の中心に突っ込むのではなく、慎重にその淵をたどりながら進む船団。だが、霧の向こうには何かが待っている。


 俺は、ティアの背で目を細めた。


「ティア、敵を探せ!」彼は単身、霧の中に進んで行った。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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