ドラムとの対話
俺は、気づけば、お粥を何杯もお代わりしていたらしい。
「もう、お終い」
「えー」
「時間をおいて、また食べましょうね」
レイラに、まるで子供をあやすように言い聞かされる。
「じゃあ、ドラムに会いに行きましょう!」
特別室の上階にあるドラムの執務室を訪ねた。部屋の中から、怒鳴り声が聞こえてくる。 構わず、レジーナは勢いよく扉を叩いた。
「誰だ! 後にしろ!」
「レジーナです。レイラ様をお待たせするわけにはいきません」
「はぁ? 誰だって……?」
レジーナは重厚な扉を、力強く押し開けた。俺たちは、そのまま部屋へ入る。
目をあんぐりと開けるドラムと、さっきまで怒鳴られていたらしい数人の男たち。
ふんぞり返っていたドラムは、ソファからすっと立ち上がり、背筋を伸ばして直立した。つられて、部下たちも慌てて同じ態度をとる。
「こいつら、ちょっとばかし腕が立つ冒険者の護衛たちですぜ、叔父貴」
ソファにだらしなく座っていたドラムの甥を、ドラムの太い左腕が、一撃で叩きつけた。
「馬鹿野郎、早く立て。レイラ様の前だぞ」
甥は、口を開けたまま硬直した。
『まるで、物語に出てくる魔女のような妖しい女』
甥は、目を泳がせ、その考えが言葉になる前に、ドラムの拳が飛んできた。
「早くしろ」
衝撃で身体が揺れるが、甥は慌てて立ち上がる。
その様子を見て、レジーナは当然の結果に満足げに微笑んだ。
商人にとって、権力者など表面上、少し気を遣うだけの存在。ましてや、大きな資金と組織を持つ商会の重役であるドラムなら、なおさらだ。
だが、レイラは違う。革新的な発想と、先見性、柔軟な思考を併せ持つ、この大陸一の権力者。彼女は畏怖と尊厳の対象である。
だからこそ、ドラムは顔面蒼白で直立不動になっているのだ。
「おいおい、俺の時と態度が違いすぎじゃないか?」
『うるさい、黙れ』
ドラムの無言の圧が、空気を震わせるように伝わってくる。
「あら、そうなの。普通にして、ドラム。うちの者が世話になったわね」
レイラは、ふっと微笑み、ゆっくりと頭を下げた。しかし、それがドラムをますます恐縮させる。
「とんでもございません。レイラ様自らネグロクサ商会にまで御足労いただき、ありがたき幸せでございます」
「いえ、マリスフィアはどうなってるのかなと」
レイラは、軽く首を傾げた。
「も、も、申し訳ございません。セーヴァス城内からも、情報を集めているのですが……」
さっきの部下との会話もそのことである。彼らの商売にとっても、大切な情報がまともに取れていないのだ。
「いえ、それからば、うちのレジーナをスパイで送り込みましょう。マルコの側付けにどうかしら?」
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