セーヴァス
「……ここは、どこだ?」
ぼんやりとした意識の中で、俺は天井を見つめた。柔らかな寝具に包まれている。見覚えのない、豪奢な天蓋付きの寝台だった。胸の奥が重く、体は思うように動かない。
「ここは、マリスフィアの領都セーヴァス。ドラムの屋敷です」
聞き慣れた声が応じる。振り向くと、レジーナが町娘の格好をして椅子に腰掛けていた。
俺は、ゆっくりと身を起こす。
「……どれくらい寝ていた?」
「魔物の森に偵察に行ってから、三日です」
「三日も……?」
呟いた途端、じわりと頭痛が広がった。これまでも何度か森の魔女に魔力を吸い取られたことはある。だが、意識を完全に失い、こんなにも長く眠り続けたのは初めてだった。
(森の魔女のやろう、無茶苦茶しやがる)
嫌な予感が胸をよぎる。
「……俺は、森の魔女に石碑へ戻されたらしいな」
「ええ。そこをティアが見つけて、拾い上げて帰ってきました」
レジーナの言葉に、俺は眉を寄せる。
「他の奴らは無事だったのか? モルガンやナッシュの姿が見えないが?」
「出かけていますが、もうすぐ戻ります」
「そうか……じゃあ、ここに来るまでのことを、詳しく聞かせてくれ」
レジーナは静かに頷くと、落ち着いた声で語り始めた。
モルガンとレジーナは、森の中で偵察を続けていた。しかし、妙なことに魔物たちは一斉に気配を消し、姿を見せなくなっていた。
「最初は、ただ警戒しているだけかと思ったんですが……」
その時――森の奥で、何かが弾けるような衝撃が走った。空気が震え、耳をつんざく奇怪な音が響き渡る。
「まるで、大地そのものが唸ったみたいでした。その直後、魔物たちが突然、狂ったように暴れ出して……」
暴走したオークキングやオーガたちが、周囲の木々をなぎ倒しながら襲いかかってきた。モルガンたちは激闘の末、これを倒したが、疲労困憊だった。
その時、ティアが迎えに来なければ危なかった。
「それから峠の野営地に戻ると……ゴブリンの軍勢が包囲していました」
「何……?」
俺は思わず身を乗り出した。
「ドラムの馬車であなたを運んだ後、防衛部隊に加わって応戦しました」
「……それで、奴らはどうなった?」
レジーナはため息をつく。
「苦戦しました。ドラムの“接待”のせいで、防衛部隊の半数以上がまともに動けなかったので」
俺は笑おうとしたが、痛みで上手く笑えなかった。
「……身分がばれたんじゃないか?」
「そこは、ドラムがうまく処理しました。助けてもらった手前、防衛部隊の連中も口を噤んでいます」
そこまで話が進んだ瞬間――
バタンッ!
勢いよく、寝室の扉が開いた。
そこには、レイラが立っていた。怒った顔で。
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