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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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アリジゴク

 ざんばら髪の女。ほっそりとした体を包む青黒いワンピースの裾が、上空で揺れている。


 その冷徹な眼差しが、俺の戦いを無言で見守っている。


 目の前のアリジゴクが再び動き出した。鋭い顎を振り上げ、俺に襲いかかるその動きは、死を運ぶものだ。さらに、氷の荊を越えて他の数匹が迫ってくる。


 俺には彼女に話しかける余裕すらない。瞬時に判断し、戦闘に集中するしかなかった。


「話は後だ!」


 短く言い放ち、背を向けずにアリジゴクに挑み続ける。逃げることはしない。


 アリジゴクは顎を左右に振り、俺を挟み込もうとする。その動きに合わせ、長い胴体が素早くしなり、尾の先の針が鋭く光る。


「体が柔らかいな! お前!」


 俺はすべての攻撃をかわし続ける。身を翻し、しなやかに振る舞う。だが、外骨格に当たる刃の感触は、次第に無力感を募らせていく。


 剣に魔力を込めているが、アリジゴクの硬い外骨格にはその魔力も通用しない。魔力で固められた骨格に、刃は弾かれ、手に伝わる衝撃がじわじわと腕を震わせる。


「くそ……」


 魔力の力を利用しても通用しない相手に対し、次の手を考えながら、ひたすら回避を続ける。


 その時、女の無言の視線が俺の背中を刺すように感じられ、戦場で異質な存在感が不安を増幅させた。


 その不安が胸を占める中、俺の苦境に気づいたのか、ティアが本格的に参戦する決意を固めたようだ。


「くっ!」


 考えている暇はない。再び、アリジゴクの攻撃が迫る。


 俺は剣を振る速度をさらに上げ、全身の魔力を剣を握る腕に集中させた。


 溢れ出た魔力が剣を包み、青白い光を放つ。その光は、周囲の空気を震わせ、砂埃を巻き上げた。跳躍した俺は、アリジゴクの体に剣を叩きつける。

 

瞬間、耳をつんざくような破裂音が響き、防御魔力が砕け散った。その直後、剣は柔らかい肉を裂きながら進み、アリジゴクの体を鮮血とともに真っ二つにした。


 息を吐きながら着地すると、砂地に血の匂いが漂う。だが、戦いはまだ終わらない。


「ほぉ」


 女が薄く笑いながら声を漏らす。その声には、称賛とも取れる響きが混ざっていた。


 視線の先では、ティアが大きなアリジゴクをその鋭い両脚で掴み上げていた。


 軽々と持ち上げたかと思うと、無造作に上空へと放り投げる。その巨大な体が宙を舞うさまは、異様でありながらどこか滑稽だった。


 ティアの鋭い瞳が輝き、次の瞬間、アイスドラゴンの口から暴風氷が吹き荒れる。凍てつく嵐がアリジゴクを包み込み、凍りついた塊となり、勢いをつけて地上へと叩きつけられた。


「飛んでけ! 飛んでけ!」


「落ちろ! 落ちろ!」


 ティアの背に乗ったナッシュ兄妹が、戦闘を観戦しながら無邪気に声を上げる。その楽しそうな様子に、戦いの緊張感が一瞬和らぐ。


 ティアは落ちてきたアリジゴクをひょいと掴み上げ、また上空へ放り投げる。そのたびに砂埃が舞い、地面には氷の破片とアリジゴクの残骸が散らばった。


 俺は再び剣を握り直し、ニ匹目のアリジゴクに向かう。魔力を剣に集中させ、振り抜いた一撃は、再び、アリジゴクを真っ二つにした。全身に疲労が広がりつつも、息を整える暇もなく周囲を見渡す。


 その頃には、ティアが片付けたアリジゴクたちが無惨な死骸となり、陥没穴の砂地に横たわっていた。


「ふふふ、やるなお前」


 女が冷静に言うと、口元には微かな笑みが浮かんでいる。その余裕は圧倒的な威圧感を漂わせていた。


「話がある。一緒に来い。それと、その石碑には触るな!」


 女が指を一振りすると、俺の周囲に歪んだ光の膜が広がった。それは瞬く間に俺を包み込み、体が宙に浮かぶような感覚とともに別の場所へ引きずられた。


 同時に、砂地からほとんど露出していた石碑が、不気味な音を立てながら元通りに沈んでいった。その音が遠ざかるのを感じた時には、すでに俺の視界は闇に覆われていた。







お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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