ドラムとバトル
ドラムはギルドの裏庭に立て掛けられた建材のあまり木をひょいっと持ち上げた。
男の体の倍はあろうその木は、普通の人間に当たれば、それだけで致命傷になりかねない。
「馬鹿力だな。それくらいなら、俺でも持てるぞ」
俺も、同じ木を軽々と持ち上げた。その瞬間、ドラムが目を見開く。
「ほおっ!」
驚愕と興味を込めたその目は、たぶん、俺を「生意気盛りの貴族の坊ちゃん」だと思っていたのだろう。だが、彼の予想は完全に外れていた。
「リドリー様、負けるな!」
「怪我をしないで! 頑張ってぇ!」
ナッシュとナナの声援が飛び、どこか楽しげな笑いも交じる。モルガンとレジーナは、俺の本気の戦闘を期待している。俺の力の一端を見せてやるつもりだ。
「さあ、やろう。時間が惜しい」
木と木が激しくぶつかり、「ゴンッ」と鈍い音が響く。ドラムと俺がそれを力任せに振り回し、風が鋭く切り裂かれる。
「ブワッ」と風がうねり、衝突のたびに木屑が飛び散り、「ミシッ」と軋む音が大地に響く。
「わはは。楽しいな!」
魔力が自然に溢れ出し、俺の体中に高ぶりを感じる。抑えきれない衝動に従い、力が全身に湧き上がる。
徐々にドラムが押され、額に大きな汗が滲み始める。顔が歪み、もう限界が近いことを物語っている。
「何だ! ただのお坊ちゃんとは違うみたいだな」
「もっと、本気でこいよ!」
「怪我をしても、訴えるなよ!」
だが、その挑発ももはや意味を成さない。すぐにドラムの力は尽き、手にした木が吹き飛ばされ、ギルドの屋根に突き刺さる。
「真剣で構わないぞ! 得意の魔法でもな」
俺はそのまま冷徹に見下ろし、馬鹿にした笑みを浮かべる。ドラムの姿を目の当たりにし、心底面白くなさそうに言い放つ。
「馬鹿にするな! これでどうだ!」
ドラムは、本気で怒り、両腕に装着したリングをぶつける。その音が響いた瞬間、俺は魔力を一気に放出した。
ドラムが地面に拳を突き立てると、大地が唸りを上げ、瞬く間に足元から鋭いアーススパイクが突き上がる。それはまるで、俺を貫こうとする猛然とした攻撃だ。
大気が震え、土埃が舞い上がり、岩の刃が俺を貫こうとする。しかし、その瞬間。
俺を包む魔力が膨れ上がり、妖しく輝きながら波紋のように広がる。
迫る岩の柱がその光に触れた瞬間、砂のように崩れ去り、まるで最初から存在しなかったかのように消え失せた。
「無駄だ、ドラム。やはり、氷魔熊と同じだったな」
俺は冷ややかに言い、足元を一瞥する。何もなかったかのような大地が、もはや痕跡すら残していない。
俺の周囲には、誰も触れられない「絶対領域」が存在していた。
「これが、力の差だ。採用試験を続けるか?」
ドラムは顔を真っ青にし、完全に力尽きた様子でその場にあぐらを組んで座り込んだ。無様に肩を落とし、ぐったりとした顔をやっと見せる。
「いや、やめだ。警備をお願いする」
「じゃあ、すぐに出発だ」
俺の声を聞いたドラムは、心底嫌そうな顔をしていた。
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