マリスティアの状況
全く、何で奴らだ!
モルガンとレジーナはガスターと出かけて行った。まあ、今頃は楽しんでいるだろう。
ナッシュ兄妹は、トビーをからかって遊んでいる。
「じゃあ、次は偶数か奇数か?」
「馬鹿にするな! 奇数だろう!」
「ざんねーん。おじさん、そんな腕でよくやるねー」
軽い会話と笑い声が聞こえてくる。
本当なら、冒険者や炭鉱労働者たちに半殺しの目に遭わされてもおかしくないはずだが、兄妹のおかげだろう。
「奴らはどちらもその日暮らし。細かいことは気にしないのか……」
しかし、いつまでも遊んではいられない。俺も情報収集を少しはしないといけないなっと。
さっきの強面ギルド職員に声をかける。
「すまないな、騒がしかったな。俺はリドリーだ」
「俺は、ウエストグランの副ギルド長のマーチンだ。それより、ガスターたち、待ち構えているはずだが大丈夫なのか?」
「ああ、問題あると思うか?」
「いいや、二人とも強そうだ。ガスターたちもたまには痛い目に遭ったほうがいいからな」
「悪いが、何人か死人が出るかもな」
「そ、それは問題になるぞ」
「ならないさ、ここはレイラの所領だろ」
俺は彼女に貰った財布を見せる。白百合に両剣の紋章が縫い込まれている。
「え?」
マーチンは驚いた様子で言葉を失った。視線は財布に釘付けだ。喉を鳴らし、警戒するように口を開く。
「その紋章……まさか、本物か?」
「偽物だと思うのか?」
マーチンは深く息を吐き、小さく頷いた。
「いや。話をしよう。ここではまずい。俺の部屋に行こう」
部屋に入ると、マーチンの態度が明らかに変わっていた。おそらく、財布やそこに入っていたドラゴニア金貨で、俺の背後関係を察したのだろう。
先ほどまでの強面は影を潜め、声色には慎重さと敬意が混ざっている。
マーチンの話を要約すると、魔物の動きが活発化しているという噂があり、実際にセーヴァスに魔物の森を通って行こうとした冒険者たちは行方不明になっているとのことだった。
いつも魔物撲滅作戦を行うセーヴァスの冒険者ギルドも、セーヴァスの軍隊の責任者からも連絡がない。
さらに、マリスティア侯爵領には冒険者や兵隊が入ることを許可されず、厳しい検問で取り締まりが行われているという。
「誰が指示しているんだ?」
「次期当主との噂だ。今の当主は行方不明だと」
マーチンも副ギルド長だけあって、様々な方法で情報を集めているらしい。
「商人に伝言を頼んだり、賄賂を使ったりもしているが、打つ手が無くてな……」
沈黙が流れた時、トントン、と副ギルド長の部屋を叩く音がし、扉が開いた。モルガンとレジーナだ。
「リドリー様、戻りました。此処にいるとお聞きしました。ご報告がございます」
「何人、殺した?」
「まさか、しばらく動けなくしただけですよ。リドリー様にお詫びしたいと、ネグロクサ商会の者が来ております。楽しめるかと」
「やっと、俺の出番か」
俺は椅子から立ち上がり、背筋を伸ばしてモルガンとレジーナに目を向けた。彼らの表情には、ほんの少しの疲労と任務を果たした満足感が伺える。
「ネグロクサ商会ですか……武闘派の悪徳商会です」マーチンが警戒の声を上げる。
「そうでなくてはつまらないだろう」
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