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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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冒険者ギルド 決着

「偶数だ。お前は奇数で良いか?」


「いや、俺も偶数だ」ガスターが、不機嫌そうに答えた。


「それじゃあ、勝負にならないな。答えを見ようか!」俺は笑いながら促した。


 壺振りのトビーが、ためらいながらもコップを開ける。


 サイコロの目は、二と四だった。


 観衆の間にざわめきが広がる。ギルドの仲間、職員、酒場の店員まで、全員が勝負の行方に注目している。


 そんな中、ナッシュとナナが、群衆の隙間を縫うように音もなく進み、トビーの両脇に立った。兄妹は相変わらずにこにこと笑っている。


「あーあ、楽しみが無くなった」俺はわざとらしく嘆く。


 この状況で、ナッシュ兄妹が見逃すわけがない。


「もう一度だ。今度は俺からだ!」


 トビーが、いつになく落ち着かない様子でガスターに視線を送る。その目にはわずかな焦りが見えた。


『ああ、もう一度だな』


 トビーは短く答え、動揺を悟られまいとするかのようにサイコロを振った。手元に怪しい動きはない。少なくとも、そう見える。


「偶数だ。お前は?」ガスターが言う。


「答えは決まっている。奇数だ」俺は即答する。


 勝負の行方を見届けるべく、賽杯を覆っていたコップを勢いよく開けた。


 サイコロの目は、一と二。


「……あっ!」


 トビーが一瞬顔を引きつらせた。視線を慌ただしく周囲に走らせるが、何を探しているのかは明白だ。


「おじさんが探しているサイコロ、これかな?」


 ナナが、いつの間にかどこからか取り出したサイコロを机の上に放り投げた。サイコロは音もなく転がり、四の目を上にして止まる。


「いつの間に……!」


 トビーが口にしたその言葉に答えるように、ナナが悪戯っぽく笑う。


「足元に落ちてたよ。拾っただけ」


 その声には何気なさが漂っているが、机に放り投げたサイコロが止まる様子が、彼女の手先の器用さを物語っている。


 トビーの額に汗が浮かぶ。観衆のざわめきは一層大きくなったが、ナッシュ兄妹はそのど真ん中に立ちながら、まるで騒ぎの外にいるかのように落ち着いている。



「俺の勝ちだな。払ってもらおうか?」


「ふざけるな! イカサマだろう!」


 ガスターが椅子を乱暴に引き倒しながら立ち上がり、怒りに任せて叫ぶ。


「イカサマをしていたのは、お前たちだろう」


 俺は冷ややかに言い放った。その一言に場が凍りついたような静寂が訪れる。


 観客である炭鉱労働者や冒険者たちは、緊張した面持ちで事の成り行きを見守っている。


「揉め事なら外でやれ、ガスター!」


 人垣を押し分けて現れたのは、冒険者ギルドの職員らしい屈強な男だった。厳しい目つきで辺りを一瞥すると、静かながらも威圧的な声で続ける。


「これ以上荒らすなら、大目に見られんぞ!」


「わかった、外だ」


 ガスターは短く答え、渋々席を立つ。そして出口に向かいながら、取り巻きたちに振り返りざま怒鳴りつけた。


「おい、金の準備をしておけ! そう伝えろ!」


俺も後を追おうと席を立ち、出口に向かう。


「ここはお任せを!」


モルガンとレジーナが前に出て、俺の行く手をふさぐ。


「……」


 有無を言わせぬその態度に、俺の楽しみはあっさりと奪われてしまった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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