冒険者ギルドにて 勝負
「全く、ヒモとは、失礼なやつだな」
レジーナがここにいたら、不敬だと言って斬り殺していただろう。
ゲームは単純だ。サイコロを二つ壺に投げ込み、蓋をする。奇数か偶数かを当てるだけだ。
だが、サイコロに仕込んでいるのは間違いない。勝負の場面になれば、手先の器用さを活かして、目線を逸らした隙にすり替えるだろう。
なぜ、俺がそれを知っているか? それは、レイラのせいだ。
子供の頃、彼女から「半丁博打やるよ!」と意味もわからずに誘われ、ほとんど勝てたことがなかった。
彼女がイカサマをしているのはわかっていたが、俺は一度も指摘しなかった。こいつらと違い、彼女は一生懸命、隠れてサイコロを手作りして、楽しそうだったからだ。
だが、あの時の負けは、今日まとめて返してもらおう。
「この勝負、もちろんお前が受けるんだろうな?」
「ああ、金が本物ならな」
大男がそう答えると、ほどなくしてギルド職員が慌ただしく戻ってきた。
「間違いなく、本物のドラゴニアコインです」
「ほらな。本物だって言っただろう。さっさと始めるぞ。ところで、負けた時に払えないなんてことはないよな?」
「当たり前だ。心配するな」
そう言いつつも、大男――ガスターが本当にその額を持っているとは思えない。その余裕の裏には何かが隠れているに違いない。
「よかった。それじゃあ始めよう」
壺振り役の男は、神経質そうにサイコロを握りしめている。その手は小刻みに震えていた。
「おい、お前、それで大丈夫なのか? 壺振りを変わってもらうか?」
俺はわざとそう聞いた。揺さぶりをかけるためだ。もっとも、壺振りが変わると俺も少々困るが。
「しっかりしろ、トビー!」
ガスターが苛立ちを隠せない様子で声を荒げる。
「は、はい!ガスター様!」
トビーの返事は震えていた。額に滲む汗が、彼の動揺を如実に物語っている。
俺は静かに魔力を巡らせながら、状況を冷静に見極める。
「さあ、始めようぜ」
トビーの手が震えながらも、ついにサイコロを振り始めた。
壺の中でサイコロが転がる音が静寂を切り裂く。部屋の空気が一瞬張り詰めた。
全員の視線が壺に集中する中、勝負の幕が上がった――。
※
「あ! やっぱり、リドリー様いるよ、兄様!」
ギルドホールに入ってきたのは、ナッシュ兄妹だけではない。彼らの後ろにモルガンとレジーナの姿もあった。
俺の視線が、一瞬そちらに逸れる。それを見逃さず、トビーの指先がかすかに動いた。
「ま、まずいな……」
「何だ、やめるのか? それは許さんぞ!」
ガスターが不機嫌そうに詰め寄る。
「止めるわけないだろう!」
俺は平然と応じ、続けた。
「俺からでいいか?」
お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。




