ウエストグラン
ティアは、軽やかに翼を広げ、俺たちが背に乗ると、すぐに飛び立った。薄い膜のようなもので包まれており、風を感じることもない。
「わーい! 王都が一望できるよ!」
ナナが嬉しそうに叫びながら、顔を上げて空を見上げる。王都の街並みが徐々に小さくなる中、ティアは穏やかな速度で高度を上げていった。
レイラたちが手を振っているのが遥か下に見える。空の広がりを感じながら、ティアはセーヴァスへ向かう道を辿るように飛んでいた。
周囲の風景が次第に変わり、雪を頂いたカラドゥム山脈が視界に広がっていく。
俺は周囲に目を光らせ、異変がないか見守る一方、モルガンとレジーナは道の状況に気を配っていた。モルガンが地図にメモを取り、レジーナは懐から紙を取り出して何かを書き留めている。
「とても有益な情報ですね」
二人は口を揃えて満足げに言う。
「そんなに一生懸命にしなくてもいいんじゃないか?」
俺が軽い感じで言うと、レジーナはにっこりと微笑んで答える。
「いえ、レイラ様のご指示ですので」
軽い口調で言ったつもりだったが、俺は頼まれた覚えがないなと思いながら、肩をすくめる。
「そうか……」
モルガンは落ち着いた調子で言った。
「こういった細かい仕事はお任せください。重要な任務ですので」
ナッシュは最初こそ怖がって目を閉じていたが、空に慣れてきたのか、今は景色を楽しみながら、ぶつぶつと計算している。
「この速さで飛んでいけば、セーヴァスには昼前には到着しますよね?」
「ああ、でもティアが本気を出したら、もっと早く着けるだろうな」
俺が冗談交じりに言うと、ティアが翼を数度振り、少し速さを増そうとする。
「ティア、今はゆっくりでいいんだ」
俺が優しく制すると、ティアはすぐに速度を落としてくれる。
やがて、王国直轄領の外れにある炭鉱の町、ウエストグランが見えてきた。町外れの広場には、数多くの荷馬車が並び、食事の支度をしている者や、出店が並んで賑わっているのが見える。
周囲には活気があふれ、人々が忙しく動き回っていた。
その先の道には、王国直轄領とマリスフィア領を繋ぐ門が見え、そこに武装した兵士たちが立って警戒している様子がわかる。
「よし、あの町で聞き込み調査をしよう」
セーヴァスへの道のりの最初の拠点だ。ここなら、問題が起きても安心して対処できるだろう。
俺はティアに頼んで、ウエストグラン炭鉱の上、崖の端に降りてもらった。
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