選抜開始
俺の声に、そこにいた者たちは反応したが、誰も挑もうとはしなかった。どうやら闘い方や弱点を見極めようとしているらしい。
「うーん、困ったな。最初の五人には二回挑戦権をやろう」
その言葉に、今度は全員が動き出し、順番を巡って喧嘩になりそうな勢いだ。
「あー、めんどくさいな。じゃあ、こっちから行く。訓練所から出たり、気絶したら負けだ」
「こっちは真剣だぞ。それでも構わないのか?」
くだらない妄想を巡らせて、躊躇する者もいる。
「もちろんだ。俺に触れることができるかな?」
わざと馬鹿にした口調で挑発する。
「くそっ!」
今日集められた者たちは腕に自信のある連中だ。その自尊心を傷つけたらしい。
「その目だ。行くぞ――五、四、三、二、一」
面白いことに、王女近衛隊は隊列を組んで迎え撃とうとしている。
「前列は何があっても盾を手放すな。弓隊、打ち抜け。号令を待て。遠慮はいらん。騎士は動くな!」
真っ白な鎧に赤い羽飾りをつけた女性隊長が鋭く指示を飛ばす。隊列の整い方、その統率力。そして、纏う魔力の気配――確かに只者ではない。おそらくテオの言う副団長候補の一人だろう。
隊列を組んだ女性たちが、盾を構えたまま、じわりと前進してくる。迫る気配には迷いがなく、視線は鋭い。
「時間がかかりそうだな。じゃあ、お前らからだ」
力や技に自信を持つ騎士たちが、俺を囲み、それぞれの間合いから一斉に打ち込んでくる。
俺はほんの少し魔力を全身に纏った。自然と手に持った木刀にも魔力が宿る。
「遅いぞ! もっとだ!」
この程度の速さでは囲んだうちに入らない。だが、俺は逃げずに迎え撃つ。
「ガチン! バキンッ!」
真剣を木刀で受け止めるたびに、鋭い音が響く。
「えっ――!」
鋭い衝撃を受けた騎士の両手剣は、俺の軽そうな木刀に弾かれ、手からすっぽ抜けて飛んでいく。木刀でわずかに触れただけなのに、まるで見えない圧力を叩きつけられたようだ。
「おい、剣を手放してどうする? ぼけぼけするな」
呆然とする騎士たちに対し、俺は木刀で軽く肩や胴を撫でるように触れていく。
それだけで、次々と意識を刈り取られた騎士たちは倒れていった。気づけば俺を囲んでいた者は、全員地面に転がっている。
「お前ら、一斉にかかれ!」
たまらず声を張り上げたのはモルガンだ。鋭い眼光と引き締まった体つきから見て、こちらも相当の実力者だろう。その纏う魔力は女性隊長と同じく、明らかに他の騎士とは一線を画している。
「ほう、面白くなってきたな――」
女性隊長とモルガン。二人の存在感が際立つ中、俺はその気配を楽しむように木刀を軽く握り直した。
「あれ⁈」暗殺者ギルドの双子も参加しているはずだが……
周りを見回すと、訓練所の端。デグの後ろに隠れていた。
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