魔女の正体
「何のことだい?」魔術師のエルダは、誤魔化すように言った。
「わかったんだ。纏っている瘴気でな。なぜ、人間に化けているんだ?」俺は何度も魔力を吸い取られていたが、ようやく気づいた。
「失礼だね。私がいつ人間だなんて言ったんだい」エルダは涼しい顔で答える。
「ああ、そうだな。だが、人の世界に紛れているのは確かだ」
「ふふふ、気まぐれさ。教えてやろう。我々、魔女は元々、人だった者もいれば、魔物だった者もいる。そして私は、昔と同じ生活をしているだけだよ。迷惑をかけているかい?」
「いいや。それより――お前たちは何を望んでいる?」
エルダはくつくつと笑い出した。その笑みには、どこか見下すような冷たさが滲んでいる。
「望むものなど何もないさ。味方でも、敵でもない。魔女はただ自由に生き、そして飽きたら死ぬ。それだけの存在だ。私はお前の魔力さえもらえれば、それで十分だ」
「助けてくれないか?」
「やだね。ただ、お前たちには礼は言っておく」
「何かしたか?」
「あやつの墓を作ったろう。あやつは、わしの番だったからな。墓なんてものは要らんと思っておったが……」
それは、レイラとダンジョンに行った時、彼女が魔術師の亡骸を葬った場所に墓を建てたことを指しているのだろう。
「大したことはできていない。レイラが、立派な魔術師だったと言ってたな」
「ははは、あやつが……そうか、そうか。だが、嬉しいものだよ。少し待っていろ」
そう言うと、エルダは裏の倉庫へと消えた。
しばらくして戻ってきたエルダは、古びた金属製の輪を差し出した。
「わしは魔力をもらったら報酬を与えることにしている。それは自分への戒めのようなものだよ。今回の報酬はドラゴンの足環だ。それともう一つ、お前の番にやろう。あやつの残したがらくたから選んだ、魔封じの指輪だ」
「もらっておく。使い方は?」
「試してみるといい。魔封じは名の通りだ。それにしても――女が来たようだな」
レイラがこちらへ近づいてくるのがわかる。
「死なずに、来年の冬に来いよ」
「ああ」
俺は、レイラに事情を話しながら、丘に戻り、ティアに足輪をつけた。
足輪をつけたティアは、肩に乗るくらい小さくなった。
「ははは、縮小の指輪か……ティア、自分で変えられるか?」
ティアは小さな頭を揺らすと、元の大きさに戻った。
「さてと、王都に戻ろうか?」俺が言うと、レイラは俺をじっと見つめてきた。
「お願い、指輪をはめて!」
甘えた声と共に差し出された手に、俺は小さく息をつきながら、指輪を手に取った。
俺は、彼女の指輪に魔力を込めて、彼女の指にはめた。指輪はほんのりと光を帯び、レイラの身を守る魔力が静かに宿った。
「これで大丈夫?」
「うん、ありがとう」
レイラがにっこりと笑うと、俺はティアに向き直り告げた。
「ティア、頼むぞ。じゃあ、行こうか」
ティアは氷雪島を一周して、別れを告げると、王都に向かった。
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