休息の終わり
それから数日過ぎた深夜。俺はただならぬ気配に目を覚ました。
「早くないか? 冬はまだだぞ!」
そこには、不機嫌そうな表情を浮かべた氷雪の魔女が立っていた。
「お前がいるうちに、魔力を貰いに来たのさ。それと、あの女に吸い尽くされる前にな」
「あの女?」
「そこで覗いている泥棒猫だよ!」
寝ていたはずのレイラが、亡霊のように立ち尽くしていた。
「大丈夫か? レイラ」
体を揺すってみたが、反応はない。冷たさは感じられないが、どこか生気が抜けたように見える。
「安心しな。金縛りをかけただけだ」
魔女の不穏な言葉に焦りを覚えつつ、問いかけた。
「お前に聞きたいことがある!」
しかし俺の言葉は無視され、次の瞬間、身体が硬直し、抵抗する間もなく魔力を吸い取られていく。じわじわと体から力が抜け、意識がぼやけていくような感覚が広がる。
「ああ、やはり旨いな、お前の魔力は。知らないだろうが、この島は女人禁制だ。当然、この小屋もな。だが、お前の番だから許してやろう」
満足したのか、ご満悦な表情を浮かべると、吹き荒ぶ雪の中に消えていった。
※
魔女が去ると、俺の体の金縛りは解けたが、体の芯がずしりと重くなるような感覚が残り、なんとか彼女を抱えて寝床に横になった。
次の日、目覚めると、レイラは隣にいなかった。キッチンから鼻歌が聞こえてくる。
「おはよう、レイラ」
「おはよう、あれが氷雪の魔女ね。私を目の敵にしてたわ」彼女の目には闘志が宿っていた。
「ああ」
「リドリー、今日からは私が食事を作るわ。胃袋を掴まないとね」
「大丈夫なのか?」
「失礼ね」
彼女の作る料理は、どちらかといえば個性的で、彼女曰く「異世界風」だった気がするが……
「前にも食べたでしょ?」
「監獄の食事か!」
「勘が良いのか、悪いのか……」
あっという間に、一週間が過ぎた。それは、俺にとっても、きっと彼女にとっても幸せな時間であったと思いたい。
昼はダンジョンの探索に出かけたり、ティアに乗って島を案内したりした。
夜は、本棚の本を読んで過ごすのが日課となった。レイラは興味深そうに古い本をあさり、不思議そうに首を傾げたりしていた。
「この本、読める?」
彼女が差し出した本を手に取ると、表紙に見覚えのない文字が刻まれていた。
「異国の言葉か……?」
「これは、異世界の言葉よ」
そんな時間を重ねているうちに、「ちちちち」と伝書鳥が休息の時間の終わりを告げた。
レイラは溜息をつき、「焼いて食べちゃおうか?」と冗談を言いながら、伝書鳥の足につけられている伝書筒から手紙を取り出し、読んだ。
「リドリー、王都に帰りましょう」彼女の顔が真剣な表情に変わった。
「少し調べたいことがある」
俺は彼女たちを丘に残し、魔術師の館を訪ねた。
「エルダ、いるか?」
「あら、久しぶりね」年齢不詳の女は、にやりと笑った。
「いや、会ったばかりだろう。氷雪の魔女」
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