休息
俺とレイラは、極北の台地を目指し、ティアに乗っている。
「もうすぐ、冬ね」
周囲の山々は雪をまとい、見下ろす村々の家々からは暖を取る煙が立ち上っている。
「寒くないか?」彼女を軽く抱き寄せる。
「ええ、大丈夫よ」
やがて、極北の町の外れ、小高い丘にあるティオス夫婦の墓へ降り立った。ティアは静かにその場にとどまり、翼をたたむ。
「しかし、ティアほどのドラゴンに誰も驚かないとは、不思議だな」
俺の言葉に、レイラが軽く眉を上げる。
「え? リドリー、ティアが普通に飛んでいる時は陰影の翼で見えないのよ。知らなかったの?」
「俺には見えるぞ」
「……リドリー、ティアは貴方の眷属でしょ、当たり前よ」呆れたように言いながら、遠くを見つめる。
その先には、俺がいた氷の島が見える。
「ティオスって、本当に口が固かったわね」
「ああ、奴は無駄なことは話さなかった。いや、話すべきことさえも、一言足らなかった」
「じゃあ、二人ともだから大変だったでしょうね」
否定しようとしたが、考え直すと確かにそうだった。ティオスと二人きりの時は、何時間も黙々とやるべきことをこなすのが普通だった。
「でも、嫌じゃなかった。黙って、冬の支度をしてくれたし、鍛えてくれたからな」
短くそう答え、視線を墓へ戻す。彼女が静かに遠くを見つめた。
「ティオス、優しかったのね……」
あの無口な男は、言葉より行動で示してくれることが多かった。
その後は、町で買い物をして、島に向かった。彼女の防寒着であったり、食料品などだ。
「思っていたより、立派ね」レイラがそう言いながら、小屋を見回す。
「そうかな?」俺は答える。
「ええ。きちんとした作りだわ。外見はぼろぼろの小屋に見えたけど……」
彼女の言葉に頷きながら、俺は続けた。
「そうだな。冬になると猛吹雪になるが、びくともしなかったもんな。それに暖かかった。魔術師の家だから、何か仕掛けがあるのかも知れない」
俺の言葉に、レイラがまた呆れたように肩をすくめる。
「本当に、リドリーったら」
「腹が減った。食事にしよう! 今日は俺が作るよ!」
俺はオイルに塩で作った特大のオムレツを焼き上げた。他にも簡単に何品か。簡単に作れるものだ。
レイラが、「今日はこれね!」と赤ワインを開ける。
「まるで、ひまわりね」
食卓を見て呟いた彼女の瞳が、どこか遠くを映している。
「何?」
「……異世界の映画、物語を思い出したの」
赤いワインの入ったグラスを見つめながら、レイラは微笑んだ。
「でも、あなたは私のものよ」
そうして、その夜、二人は、一つになった。