レメニア王国 その8 霧湖の魔女
俺は囚われの姫の元へ向かった。
もう一つの塔を登ると、そこには警備の者が誰もいなかった。
「さっき王の部屋の前で亡くなっていました」
デグが説明する。彼もついてきていた。
「そうか、じゃあ入らせてもらう」
扉を叩くと、微かな物音が聞こえた。
中に入ると、部屋の隅でうずくまり泣いている小さな女の子と、メイド長らしき老婆を見つけた。
メイド長は意を決したように俺たちの前に立ちはだかる。
「リラ様に、手を出させません!」
「そんなつもりはないよ。安心してくれ」俺は手に持っていた剣を再び床に刺し、手を放した。
「では、どんなご用ですか?」メイド長の声は震えながらも、必死に尋ねた。
「そちらに、先日捕まえた盗賊もいますが?」デグのことを指差す。
「俺は……」デグは、言葉を詰まらせた。
「いじめないでやってくれ。任務に忠実なだけだ。危害は加えない男だよ」と、説明を加えた。
「お顔を見せていただけないかな、リラ姫、いや、リラ王妃」俺は問いかけた。
下を向いていたリラは、ゆっくりと顔を上げると、泣いていたのが嘘のような表情で答えた。
「そうです。怪しい集団から解放していただき、感謝いたします」
俺は、彼女から圧倒的な魔力を感じていた。いや、恐るべき脅威的な力も。
「失礼な質問ですが、王子は貴方の子ですよね?」
「勿論です。可愛いでしょ」リラは微笑みながら、答えた。
「なぜ、国王を見殺しにしたのですか?」
「私たち二人は囚われており、動けませんでした」リラの声は冷静で、どこか達観しているようだった。
「ははは、貴方の力なら、悪魔でも簡単に殺せるでしょう。魔女様」その一言を放ちながら、俺は剣を抜いた。
「あら、買い被りだ」リラは軽く笑うと、メイド長に触れた。彼女は気を失い、崩れ落ちた。
──やはり、相手は魔女だ。
全身に魔力を巡らせ、熱が走る。覚悟は固まった。逃げ場はない──戦うしかない。
俺は剣を握り直し、一歩前へ踏み出した。
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