レメニア王国 その4 監獄、再び
地下の監獄の独房に押し込められ、騎士団員は忙しげにその場を立ち去った。
「おい、お前、名前は何だ?」
隣の独房に入れられている男が声をかけてくる。
「……」
「おい、無視するなよ!」
男は苛立ち、鉄格子をガタガタと揺らした。
他に人の気配はない。看守もどこかへ行ったらしい。
全くうるさい奴だ。
「まずは自分の名を名乗るものだろう」暇つぶしに相手をしてやる。
「俺の名は毒蛇のデグだ」
「リドリー」
「で、何をして捕まったんだ?」
「……」
「わかったよ!」
デグは投獄されるまでの出来事を語り始めた。城に窃盗に入って捕まり、ここへ放り込まれたらしい。
「だがな、おかしいんだ。隠密スキルが完璧だったのに、簡単に見破られたんだぞ」
「ふうん」
「本当だって!」
「いや、疑ってないさ」
そんな会話をしていると、看守が食事を運んできた。湯気の立つスープとパンを鉄格子越しに差し入れると、苛立たしげに言う。
「早く食え。さっさと片付けたいんだ」
デグは食事をしながら俺を上目遣いに見ている。
「……」
俺は特に気にせずパンを一口かじり、スープを飲んだ。数分も経たないうちに全てを平らげる。
看守はその様子を見て動揺しながらも、トレイを急いで回収し、そそくさと地下室から立ち去った。
「手荒い歓迎だな。毒入りの食事とはな。デグ、貴様知ってたろう?」
俺が問い詰めると、デグは苦笑いしながら肩をすくめた。
「まあな、俺は毒が効かない体質なんでな。それにしても、お前、平気なのか?」
「見て分からないか? 牢獄の飯は美味いもんだと思ったんだがな」
セルフヒールで処理された毒の影響は既に消え、体調に問題はない。
「さて、貴様の目的は何だ? 俺を見殺しにしようとしたんだろう。話してもらおうか」
「いや、俺はただ監獄に閉じ込められて……」
「いい加減にしろ。この程度の鍵、貴様なら簡単
に外せるだろう。殺されたいのか?」
俺の低い声に押され、デグは鉄格子越しに縮こまり、観念したように口を開いた。
「降参だ。俺は暗殺者ギルドの者だ。だがリドリー、お前は敵じゃなさそうだな」
「暗殺者ギルドか。ティオスを知っているか?」俺は恩人の名を口にした。
「えっ……初代ギルド長のことか? そりゃあ知ってるさ。俺はあの人の弟子だ」
「嘘をつけ」俺は冷たく笑う。
「ティオスからそんな話なんて聞いたことがない」
ティオス――俺が初めて出会った暗殺者にして流刑執行人。いや違う。レイラがつけた俺の護衛者にして恩人、そして武術の師匠だ。
「……弟子ってのは言い過ぎた。ただ、俺たちの間じゃ伝説なんだよ。ティオスの技術と名前は、俺たちの憧れなんだ」
その言葉に俺が反応する前に、小さな音がした。
カチャリ――
気づけば、デグは鉄格子を開けて独房を抜け出し、俺の前に立っていた。
「全く、手癖の悪い奴だな」
俺が呆れると、デグは笑みを浮かべながら手を広げて見せた。
「協力してくれないか? ティオスの本当の弟子よ!」
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