表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/176

レメニア王国 その3 治癒


俺は、全員に囲まれて、逃げ場を失った。


「話を聞け!」


「どりゃ!」


 問答無用で騎士たちが槍を突き出してくる。俺の魔力の残滓は膜となり、穂先を粉々にした。


 剣を振るった騎士は、膜が形成するエーテルシールドに弾かれ、塔の壁にぶつかって気を失う。


「こいつ、魔物だぞ!」


引き攣った顔でおどおどする騎士団員たちだが、戦意はまだ失っていない。


「待て待て! 降参だ! それより国王を早く手当しろ!」


 騎士たちは困惑したように顔を見合わせる。


「まさか、お前たちの中に治癒師はいないのか?」


沈黙が答えだった。


「いや、仲間にはいる。だが、レイラ王女の命令で王国軍に派遣中だ……」


 そう吐き出した騎士は、自分の言葉にハッと気づき目を伏せる。無意識の漏らしだったのだろう。


 他の騎士たちが目でそれを咎めるが、どうにもならない。


「そうか。俺の魔力は身体から離れないが、やるしかない」


 ポーションを見つめるが、迷っている時間はない。俺は国王の傷口に触れ、右手に治癒魔法をかけた。


「ヒール」


 魔力が癒しの光となり、右手を包み込んでいく。


 その光が溢れ出し、傷口へと染み渡る。


 強引なやり方ではあるが、俺の魔力が無尽蔵だからこそ成し得る手段だ。


 騎士たちは、光が国王の傷を塞いでいくのを凝視していた。やがて、槍を構える手が震え、警戒が次第に薄れていく。


「……一応、国王殺害の容疑で逮捕するが、事情は国王からお聞きする。それまで大人しくしてくれないか」


「……ああ」


 俺は再び濡れ衣を着せられ、投獄されることとなった。


「すまないが、人を待たせている。事情を伝えてくれないか?」


 やむなく俺は、レイラがいる宿の場所を教えた。


「受付に伝言してくれ」


 壊れた扉の前に、いつの間にか人影が立っていた。


 騎士団長が振り返り、その人物を見て安堵の表情を浮かべる。小人で、偏屈そうな男だ。顔立ちにはどこか暗い雰囲気が漂い、小動物を思わせる鋭い目をしている。


「王子殿下、ご無事でしたか?」


「ああ、無事だ。父上はどうだ?」


「気を失っているだけだ!」


俺は王子と呼ばれる男に向けて声をかけた。


「そうか」王子は疑念を隠さず、じっと俺を見つめた。その瞳には警戒と冷めた好奇心が同居している。「奇妙な奴だな」とでも言いたげだった。


「わかった。それでは、国王の介護と、この男の捕縛を進めてくれ。地下牢に閉じ込めておけ。私は、この男の仲間に伝言を届ける」


 王子の背後には、怪しげな市民兵が控えている。そのまま王子は騎士たちに指示を出し、軽やかな足取りで立ち去った。


「不思議な男だ……」


 呟いた声は静寂に吸い込まれ、誰も返答しなかった。


 そして俺は、騎士に先導され、地下の牢屋へと閉じ込められた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ