レメニア王国 その3 治癒
俺は、全員に囲まれて、逃げ場を失った。
「話を聞け!」
「どりゃ!」
問答無用で騎士たちが槍を突き出してくる。俺の魔力の残滓は膜となり、穂先を粉々にした。
剣を振るった騎士は、膜が形成するエーテルシールドに弾かれ、塔の壁にぶつかって気を失う。
「こいつ、魔物だぞ!」
引き攣った顔でおどおどする騎士団員たちだが、戦意はまだ失っていない。
「待て待て! 降参だ! それより国王を早く手当しろ!」
騎士たちは困惑したように顔を見合わせる。
「まさか、お前たちの中に治癒師はいないのか?」
沈黙が答えだった。
「いや、仲間にはいる。だが、レイラ王女の命令で王国軍に派遣中だ……」
そう吐き出した騎士は、自分の言葉にハッと気づき目を伏せる。無意識の漏らしだったのだろう。
他の騎士たちが目でそれを咎めるが、どうにもならない。
「そうか。俺の魔力は身体から離れないが、やるしかない」
ポーションを見つめるが、迷っている時間はない。俺は国王の傷口に触れ、右手に治癒魔法をかけた。
「ヒール」
魔力が癒しの光となり、右手を包み込んでいく。
その光が溢れ出し、傷口へと染み渡る。
強引なやり方ではあるが、俺の魔力が無尽蔵だからこそ成し得る手段だ。
騎士たちは、光が国王の傷を塞いでいくのを凝視していた。やがて、槍を構える手が震え、警戒が次第に薄れていく。
「……一応、国王殺害の容疑で逮捕するが、事情は国王からお聞きする。それまで大人しくしてくれないか」
「……ああ」
俺は再び濡れ衣を着せられ、投獄されることとなった。
「すまないが、人を待たせている。事情を伝えてくれないか?」
やむなく俺は、レイラがいる宿の場所を教えた。
「受付に伝言してくれ」
壊れた扉の前に、いつの間にか人影が立っていた。
騎士団長が振り返り、その人物を見て安堵の表情を浮かべる。小人で、偏屈そうな男だ。顔立ちにはどこか暗い雰囲気が漂い、小動物を思わせる鋭い目をしている。
「王子殿下、ご無事でしたか?」
「ああ、無事だ。父上はどうだ?」
「気を失っているだけだ!」
俺は王子と呼ばれる男に向けて声をかけた。
「そうか」王子は疑念を隠さず、じっと俺を見つめた。その瞳には警戒と冷めた好奇心が同居している。「奇妙な奴だな」とでも言いたげだった。
「わかった。それでは、国王の介護と、この男の捕縛を進めてくれ。地下牢に閉じ込めておけ。私は、この男の仲間に伝言を届ける」
王子の背後には、怪しげな市民兵が控えている。そのまま王子は騎士たちに指示を出し、軽やかな足取りで立ち去った。
「不思議な男だ……」
呟いた声は静寂に吸い込まれ、誰も返答しなかった。
そして俺は、騎士に先導され、地下の牢屋へと閉じ込められた。
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