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新章 レメニア王国編

ティアの背中に乗った二人は、最果ての地を目指した。


「急ぐ旅でもないからな」


 俺は、ティオスとの流刑地への旅の途中で見た美しい景色を、彼女にも見せたかったのだ。


「それに、その姿じゃあな」


 彼女は周囲に気づかれないよう、寝巻きのような薄手の服を着たまま抜け出したのだろう。持ち物は鞄一つだけだった。


 俺がその格好をじっと見ていることに気づいた彼女が、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「見ないでよ!」


「いや、可愛いよ」

 

そう言った途端、彼女が「くしゅん」と小さなくしゃみをした。

 

 秋の早朝は冷える。俺は寒さには慣れているが、彼女は薄着だ。外套を広げ、彼女を包むようにして温める。

 

 体温と共に彼女の甘い匂いが微かに伝わってくる。俺は、気づかれないように視線を空に逸らした。

 

 王国の北にある、とても小さな国。レメリア王国。大きな湖と山々に囲まれたその地には、ひっそりと佇む村々があり、静かな湖面には小さな城がぼんやりと映っていた。


「ティア、近くの森に降りてくれ」


 ドラゴンは、俺たちを降ろすと大きく羽ばたき、森の奥へ消えていった。


 俺たちは怪しまれながらも宿を取って暖を取り、簡単な朝食を済ませた。その後、市場に立ち寄り、村民がよく着る質素な服を買った。


「駆け落ちかい?」行商人が、不躾な笑みを浮かべて尋ねてくる。


「まあな」俺たちは目を見合わせて、言葉を交わさず微笑んだ。


 湖の周りを散歩した。湖は静かなさざ波を立て、その波間に青空を映し込んでいる。


「また魔物とか勘弁してほしいね」


「そんなこと、言うと……」


 彼女が言いかけたそのとき、不意に城から黒煙が上がるのが目に飛び込んできた。


「何かあったな。見に行ってくるよ」


 俺は、二本ある剣のうち、レイラに短剣を渡し、宿に戻って部屋に籠っているよう伝える。


「わかった。気をつけてね」


 彼女は、この隣国の王や貴族に顔を知られている。連れて行くわけにはいかない。


 城に近づくと、嫌な気配が感じられた。俺の目には、城を覆う薄い膜の結界が見える。門は固く閉ざされ、橋も上がっている。


 口笛を吹いてティアを呼び寄せた。ティアに乗り、城の様子を上空から偵察しようとしたが、黒煙と結界で城内が見えない。


 ティアに下降するように伝える。


「俺は飛び降りる。レイラを見守れ」


 ティアは低く声を上げ、頷くように翼を広げ、去った。俺は剣を抜き、結界を切り裂きながら城内へ飛び降りた。


 城内には、嫌な匂いが充満している。それは王城で嗅いだ悪魔の匂いと同じだ。


「これは……」俺の研ぎ澄まされた五感に、確かな警鐘が鳴り響いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。



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