千年の孤独
特別編
春を待つ、寒い冬の日。大王国の王城にて。
セオリツヒメは、旅立った。
既に、生きていたレイラを知る者は、魔女と、地下に潜り行方不明のリドリー。
それと、スサノオだけだ。スサノオの手厚い介護によって、長く生きたが天才の彼でも変えられないものがあった。
「これ以上は、無理か……」
「ありがとう、スサ。もう充分よ」
「ああ、だが……」
彼の母であるレイラや、妹のサクナの時よりも、上手くやれたという自信はある。
だが、彼は貪欲な漢だ。
いかなる彼女の病も、彼は治した。何度も時を戻した。
そして、彼女の中にほんの僅かな生み出される魔力を増幅した。
けれど、もう彼女から、魔力が生まれなくなった。それは、死を意味する。
「こんなお婆さんの世話をさせるのは、心苦しいわ」
「いや、お前はいつまでも美しい」
百歳を超えているのに、溢れんばかりの魔力により、今だに若々しいスサノオ。
『もう、終わりだ』
時の波は荒れ狂い、スサノオの時間の遡りを拒絶する。
魔女たちも、彼のしつこさに呆れながらも、誰も何も言わなかった。
深い愛情の証であることを知っているし、羨ましがった。
「私が死んだら、新しい妻を娶ってね。そして子供を……」
「ああ」
スサノオには、そのつもりが微塵もないが頷いた。
セオリツヒメとの間に、子供がどうしても出来なかった。
だが、そんなことは、スサノオにはどうでも良いことだったが、彼女にとっては悔しかったのだろう。
「少し休むといい」
「そうするわ、とても眠い」
「怖い夢を見ても、俺が助けに行くから。覚えておけ!」
スサノオは、彼女の手を握り、寝顔を見た。少しずつ、彼女は冷たくなっていった。
「くそっ!」
彼の頬から涙が溢れ、セオリツの顔を濡らした。
「あとは、お前に任せる」
リュカの孫に告げると、セオリツヒメの亡骸を抱き上げて、大陸全土を一つの王国にしたスサノオ大王は、忽然と姿を消した。
彼は、大森林の魔女の元に帰ったとも、父リドリーの後を追い地下に潜ったとも言われているが、所在は不明だ。
時折、彼の使役していたドラゴン、クシナダヒメが現れる時があった。
背に彼の姿があったとも、なかったとも言われていた。
冬の冷たい風が城を吹き抜け、雪は静かに舞い落ちる。
日々は流れ、季節は巡る。
だが、誰も知らない場所で、スサノオの愛は、時間を超えて静かに流れ続ける――
千年の孤独の中で、静かに、永遠のように。
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