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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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249/251

君の名を残して

外伝 ラストです。



 サクナ・ノクスフォードは、女の子を一人だけ生み、少し床に伏せるようになった。

「レイラの血を引く女は短命なのかしら。この子には膨大な魔力を持つよう祈ったわ」


「魔女になってしまうよ」レオナールは笑った。

 ノクスは、側室をとるようサクナから勧められたが、彼はとらなかった。


「あんな我儘な妹を愛してくれてありがとう」

 スサノオ大王が、ノクスに言った。

「お言葉ですが、どこが我儘ですか? 私は幸せですよ」


「そうか。お前の、サクナの子供たちに困ったことがあったら私が助けよう」

 スサノオは力なく、無理に笑った。

 侯都シュベルトの空は、夕陽に染まり始めていた。


 白地に盾とドラゴンが描かれたノクスフォード家の大旗が、ゆっくりと風に揺れる。彼女の愛する屋敷の中で、静かにサクナ・ノクスフォードは横たわっていた。


 頬には淡い赤みが残り、眠るように穏やかだったが、呼吸は弱く、徐々にその回数を減らしていく。


 レオナールはそっと彼女の手を握った。指先の温もりが少しずつ冷たくなっていくのを感じながらも、目を離せなかった。


「レオナール……」

 かすれた声でサクナが呼ぶ。その視線は柔らかく、温かい光に満ちていた。

「サクナ……俺はここにいる」


 レオナールは震える声で答えた。胸の奥が締め付けられるように痛む。

 サクナは微笑む。その笑顔に、レオナールの心は涙で揺れた。


「リリカ……」

 小さな子どもがサクナの胸に抱き寄せられる。まだ幼い娘の目には、理解しきれない不安と母への愛情が混ざっていた。

 サクナはそっと娘の髪を撫でた。


「私の宝物……ずっと、守ってね」

 娘の手を握り、そっと抱きしめる。その手はやがて緩み、サクナの指先はすべての力を失っていった。


 レオナールは泣きそうになりながらも、そっと頬を撫でた。

「俺が守る。必ず」

 だが、言葉だけでは届かない深い別れの悲しさが、二人の間に流れる。


「くそっ、繰り返しても寿命には勝てん」

 側にいるスサノオ大王が肩を落とした。

 窓の外、侯都の風景が夕陽に金色に染まり揺れる。

 遥か平原に沈む最後の光が、静かに世界を包んだ。


「ありがとう、サクナ」

 兄として、そして盟友として、深い悲しみと敬意が胸に迫る。

 サクナは静かに目を閉じ、長く深い息を吐いた。


「兄さん。レオ。私は……幸せだった……」

 その声は瞬く間に風に溶けた。

 レオナールはサクナの手を握ったまま、涙が頬を伝う。

 娘も父に抱かれ、泣きながら母の温もりを欲しがっていた。


「さようなら、サクナ……」

 声を震わせながら、レオナールは最後の別れを告げた。

 黒狼たちも、静かに周囲で座り、彼女の魂を見送るように見守っていた。


 その夜、侯都シュベルトの空には満天の星が瞬き、森や教会、城、そして家族の影を優しく照らした。


 サクナ・ノクスフォードは、最期まで愛する者たちに囲まれ、静かに、しかし確かに世界にその光を残したのだった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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