暗殺の森
外伝二話目
執事の姿は、どこにも無かった。
「助けて下さい。狼が……」
森林から、執事と一匹の黒狼が現れた。執事の顔は恐怖に歪んでいた。
「ご苦労様!」
黒狼は座り込み、サクナに頭を撫ぜると嬉しそうにしている。
ふうっと、執事の顔に色が戻った。
「何があった?」オダニが尋ねた。
「わかりません。何者かと狼が戦っていて、私は森に逃げ出したので……」
執事の顔に、焦りの顔が浮かんだ。
「詳しく聞かせてもらおう」
そこに、エンジが彼女の部下を率いて現れた。
「何も見ていないのだ。これ以上話すことは無い」執事は不愉快さを隠さずに言った。
「サクナ様の読み通りでした。オルフィン侯爵からこの森の整備に多額な支払いがありました。あなたが知らないはずが無い。取調べをする」
「それは、侯爵が勝手にやったことだろう。知らん」
「こいつらの顔は知ってるだろう」
猟師の格好をした怪我をした目つきの悪い男、数人が縛られてよろよろ歩出た。数匹の黒狼が取り囲み、少しでも変な動きを見せると懲罰を与えていた。もう、彼らにはもう逆らう気力は残ってはいなかった。ただ執事に対しては、恨みの目を見せていた。
「お前、裏切ったな? 俺たちはずっとオルフィン侯爵に仕えていたのに?」
猟師の姿をした拘束されている男たちは叫んだ。
「何のことだ。こんな猟師など見たことが無い」
執事は惚けた。そのことがさらに彼らの怒りを買った。
「ふざけるな! 切り捨てるつもりか。お前の指図でどれだけ暗殺をしてきたと思ってるんだ!」
サクナが、不愉快げに手を振り、それに気がついたエンジは慌てて言った。
「すいません。下がらせます。全員連れて行け。厳しい取調べを覚悟しておけ!」
「エンジ、森の中にはかなりの死体が埋まっています。黒狼に案内させます」
「ご協力感謝致します!」
黒狼は、すっと立ち上がり森林に駆け出して行った。
※
森林からは、帯びだたしい数の人骨や死体が見つかった。それは過去数十年、いやそれ以上昔から行われていた暗殺されたものたちのものだった。
「カシス、私たちの家の近くに、教会を造って欲しいの、彼らの為に。場所は森林に」
「私で務まるのでしょうか?」
「帝国で東方聖教会の素晴らしい教会を見たじゃない。あれほどではなくても心が休まるものを。レオナール家もそこに籍を置かせてもらうわ」
侯都の中心にあった不吉な森林は切り開かれてあっという間に無くなった。
「サクナ、最初から知っていたのか?」
レオナールは、彼女に聞いた。
「不自然だったから、ちょっと調べてみただけよ」
「流石だね」
「ううん」
こういった暗殺も必要悪だとサクナは考えていた。だけど、レオナールにとって必要な組織ではない。いや、そんな暗部があることが彼を曇らせてしまう。
「そんなことよりも、屋敷の部屋の配置を考えたの。地下室もあるのよ」
「地下室? 必要あるかな?」
「将来、必要になるかも知れないわ。子供部屋はいくついるかな?」
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