表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/251

終わらぬ手


「……ここは?」

 レオナールが目を開けると、天井の模様がぼやけて見えた。


 重いまぶたの隙間から差し込む光。その下で、彼は誰かの腕に抱かれていることに気づく。

「ごめんね、遅くなって」


 声の主はサクナだった。

 彼女の魔力のぬくもりが、まだ皮膚の奥に残っている。見慣れた天井──ここは彼の屋敷だ。


「いや、それより……どうなった?」

 レオナールはゆっくりと身を起こした。痛みはない。サクナの治癒魔術で、傷は完全に消えている。

「アオイ伯爵は取り押さえたわ」


「……そうか。タリアンは?」

「カシスが看病してる。たぶん今ごろ、甘えてるわよ」


 サクナが微笑む。

 レオナールは小さく息をつき、窓の外を見た。そこにはマクラーレン家の屋敷が見える。

「あいつには助けられた」


「そうね」

 短く応じる声には、棘のような硬さが混ざっていた。

 ──だが、彼の父は許せない。いや敵だ。だから片付けないといけない。


 その頃、アオイ伯爵は侯都シュベルト郊外の小屋に幽閉されていた。

 親衛隊は全員捕らえられ、城の地下牢に送られている。


 取調べ官を務めるのは、エンジ。

 彼女の冷徹な声が、石の壁に反響した。

「お前がグランを殺したのは分かっているんだぞ」

「どこに証拠が……?」


「証拠なら伯爵が言ってたわ。“あいつが勝手に毒を使った”ってね。タリアンも見たと言ってた」

 もちろん、エンジの嘘だ。


 副団長は混乱し、焦りから言葉を失った。

 その一瞬の隙を、エンジは逃さない。

「……やったのは、俺だ」


 嘆息と共に漏れた自白。その瞬間、彼女の瞳が鋭く光る。

 そしてもう一つの事件、レオナールの冤罪にも調査の手が伸びる。


「塔からウラクを突き落としたところを見たんだな?」

「……見た……いや……落ちたのかもしれない……」

「もう一度、ゆっくり話してもらおうか。嘘発見魔具は作動してる」


 数日にわたる取り調べの末、エンジは報告書を仕上げていた。

 そこへ、イズモが地図を抱えて入ってくる。

「頼まれてた倉庫、調べてきた。──当たりだよ。まるで要塞みたいな警備だった」


「やっぱりね。家宅捜索に入るわ。監視は?」

「すでに数名配置済み。けど……動きが早い方がいい」


 エンジは立ち上がり、伸びをした。

 動きが、鈍っていたところだ──そう呟いて、コートを肩に掛ける。


「行ってくる。悪い予感がする」

 そのころ。

 幽閉されていたアオイ伯爵の体に、異変が起きていた。


「くそっ……計画は全部失敗だな。だが……まだ使えるものがある」

 その体から、どろりと光を帯びた腕が伸びた。

 伯爵は笑った。


 薄い唇から、粘液と共に、かすれた呟きが漏れる。

「……逃げる。いや、“戻る”のさ」

 闇が揺れた。


 スライムの腕が伯爵の体を包み込み、屋敷の壁を突き破る。

 音もなく、彼の姿は闇に消えた。

 だが、それは言うまでもなく、サクナの策だった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ