表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

238/251

獣の道


 オダニ軍は、マルコー商会に預けてある農薬を奪い返し、帝国へと続く道を急いでいた。


 だが、帝国に抜けるにはシュベルトを通るしかない。南方からの迂回は遠すぎるうえ、その道もすでに封鎖されているだろう。


「……安請け合いしたが、骨が折れる仕事だな。だが、王国軍同士で殺し合いなんて、洒落にならん」

 残された選択肢はひとつ――魔物の巣食う山中の獣道。


 馬も荷車も置き去りにし、兵たちは農薬の袋を背にして険しい山道を登る。

 部下たちは、疲れも見せずに足を運ぶ。顔は赤く汗も滴っているのに、誰も弱音を吐かない。


「まさか、訓練でやらされた踏破が役に立つとはな」

「でも魔物がちょいちょい出てきて飽きねえな」

「口動かす暇があったら足動かせ!」


 冗談を飛ばしながらも、兵たちの足取りは力強い。疲労の中に笑いが混じるのは、彼らがオダニを信じているからだった。


 しかしシュベルトの山奥は、踏み込むほどに魔物が目の前に多く現れる。

「……もっと普段から数を減らしておくべきだったな」


 オダニがそう呟いた刹那、先頭の兵が魔物の死体を見て眉をひそめる。

「隊長、これ……俺らが斬った痕じゃない。切り口が綺麗すぎます」


「ああ。あいつの仕業だろうな」

 遠く、木々の隙間にちらりと人影が見える。振り返るでもなく、ただ「こっちだ」と言わんばかりに前を行く後ろ姿。


 森深き山は方向感覚を狂わせ、太陽の光すら見えない。それでも、不思議とその影を追うことで迷うことは無かった。


 やがて一行は、山頂近くの開けた場所へたどり着く。

「よし、ここで休憩だ!」

「やっとか……でも、これで残り半分ってところだな」


 兵たちは重荷を降ろし、交代で警戒と食事を取る。安堵のため息を吐く者もいれば、肩を回しながら空を仰ぐ者もいる。


 その中央に、奇妙な石碑がそびえていた。高さは人の高さの数倍。下半分は土色に染まり、まるで地中から押し上げられたように見える。

「なんだこれは……山奥に記念碑なんて、聞いたことがない」


 オダニが何気なく手を触れた瞬間――。

 ぐぅうん、と大地が唸り、石碑の奥から悲鳴めいた音が響いた。


 空気が震え、オダニは息を呑み、慌てて手を離した。背筋を冷たい汗が伝う。

「それは――悪魔の這い出る穴ですよ」


 声。振り返ったときには、すでに隣に青年が立っていた。

 気配を殺すどころか、存在そのものがなかったかのように。


「なっ……!? いつの間に」

 オダニの全身に戦慄が走る。だが、青年からは殺気が微塵も感じられなかった。

「安心してください。私はスサノオ様の使者です」


「……スサノオ大王様の、だと?」

「はい。ここに来ていただいたのは、お願いがあるからです」

 青年は穏やかに微笑む。オダニの睨みつける視線も、戦場で磨いた殺気もまるで効かない。


「信じろと言うのか」

「ええ。むしろ、疑う余地はありますか? あなた方は見たでしょう?」


 オダニは数秒沈黙し、やがて苦笑を浮かべた。目の前の青年は、オダニたちが調査をしたことを知っている。


「……そうだな。疑う余地はないし、俺の勘もお前をそう告げている」

「よかった」


 青年が静かに安堵の息を吐く。オダニは剣の柄に手を置いたまま、ふっと笑った。

「いいだろう。お前の話を聞こう。ただし――用が済んだら剣を交えたい」


 青年は答えず、ただ無言で深く頷いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ