表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

235/251

三度の牢獄

シュベルト侯城、謁見の間

「レオナール執政官、よくぞ無事で戻ったな――だが、一つ問おう。なぜ釈放された?」


 低く響く声とともに、アオイ伯爵は玉座の背に身を預けた。その目は氷のように鋭く、謁見の間に緊張が走った。


「この男も、侯爵の椅子をまるで自分のもののように……」

 そう思いながらも、深く一礼してレオナールは答える。


「一つは、停戦の使者として。もう一つは、侯爵領が在庫している農薬を譲り渡すためです」

「ふん……停戦だと? 戦を仕掛けておいて今度は停戦を乞うとは、帝国らしい虫の良さよ」


 アオイは唇の端を吊り上げ、冷笑を浮かべた。

「誤解なきよう。帝国は、オルフィン侯爵領が重税を課し、さらに交渉使節を抑留したことことが今回の発端ですよ」


「知らんな。侯爵とウラクが勝手に仕組んだのだろう。困った連中だ……手先は財務官僚グランか。タリアン!」


 父の鋭い声に、若き嫡子タリアンが身を正す。

「はっ」

「ミナグロスにいるグランを捕らえよ。口を割らせねばなるまい」


 本来ならば執政官エンジの職掌である任務だが、彼は帰省中で不在だった。アオイの苛立ちに押され、タリアンはしぶしぶ数名の近習兵を連れて部屋を後にする。


 アオイが知らぬはずがない。罪を被らせるのだろう。

 静寂が戻ると、アオイは再びレオナールへと視線を向けた。


「さて――農薬とやらだが、それほど帝国にとって必要なのか? たかが農薬ごとき……」


「いいえ、伯爵。害虫の被害は一刻を争います。我らが開発した薬は特別なもので、帝国には存在せず、通常の交易では得られません」


「ほう……ならば高く買い取ってもらおう」

「申し訳ありません――すでに、無償で提供すると約束して参りました」


「なに?」アオイの目が鋭く光った。「勝手なことを……だがよい。我が王国の血税である以上、他の条件はつけさせてもらおう」

 言葉を切り、彼は冷酷な笑みを深める。


「だが――お前の帝国スパイの嫌疑は晴れておらぬ」

 アオイが片手を挙げると、警備兵たちが一斉にレオナールを取り囲んだ。鉄鎖の響きが謁見の間にこだました。


 こうして彼は、三度、牢獄の闇へと引きずり込まれることとなった



数日後、シュベルト城の牢獄

 冷えた石壁、湿り気を帯びた空気。錆びた鉄格子越しに差し込む光は薄く、時間の感覚さえ奪っていく。


 その静寂を破り、足音が近づいてきた。

「留守にしてすみません。ご体調は……大丈夫ですか?」


 現れたのはタリアンだった。まだ若さの残る顔に疲労の色が濃い。

「ああ、大丈夫だ。それよりも、状況を聞かせてくれ」


「……実は」タリアンは声を落とす。「グランは輸送の途中で自害しました」

「自害? ――口封じ、か」

「その可能性は高いと思います」


 だが、誰の仕業かを問うと、タリアンは唇をかみ、言葉を飲み込んだ。

 しばし沈黙が流れた後、レオナールは前から気になっていたことを切り出す。


「カラドゥム山脈の魔物のスタンピード――あれはどうなった?」

「過去最大級の襲来だったようです。しかし幸い、西方方面軍に援軍が加わりまして。オダニ様とエンジ様の軍です。おかげで被害は最小限に抑えられました」


「そうか……」

 安堵の吐息が牢にこだました。その瞬間――

 重い鉄靴の音が廊下に響いた。複数の兵士が近づいてくる。


「来ましたね」タリアンが立ち上がる。「峠道で合流できたんです」

 やがて鉄格子の前に、戦場の匂いをまとった二人の姿が現れた。


「ただいま戻りました。ご迷惑をおかけしました」

 牢の前に立ったのは、剣気を纏うオダニと、冷静な眼差しのエンジだった。


 再会の瞬間、暗い牢獄に差し込む光は、かすかに温かみを帯びた。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ