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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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232/251

剣よりも脅威なるもの


 帝国軍はシュベルト侯都まで追撃したが、王国軍の逃げ足は速く、侯都の門は硬く閉ざされ、門上からの射撃で近寄ることもできない。


 狭道では軍を展開できず、シュベルトは小高い丘を切り開いた、自然の要塞のような地形をしていた。


 帝国軍は幕営を敷く。鋭い眼光の軍師が、眼鏡越しに人質をじっと見据える。


「レオナール殿、攻略地点について教えてもらおうか?」

「幾つかの隧道のことを言っているなら無駄です。王国軍が待ち構えています」


「お前が指図したのだろう?」

 執政官は答えず、軍師は厄介な男めと、恨めしげに睨みつけた。


 だが、人質のはずのレオナールの周りには、数匹の黒犬が離れず警備しており、拷問はおろか、触れることさえ許されていない。


「これでは、ただの客人だな」

 帝国軍の指揮官である西部一の大貴族、ケルビンが淡々と笑った。


 戦場の状況を把握している彼らは、甚大な被害を出す無駄な攻撃は避ける判断を下していた。

「仕方ない。対抗する兵を残して、解散しよう」


「わかりました」

 帝国貴族たちは一斉に安堵した。帝国軍にとって、本格的な対人戦は久しぶりだったのだ。


 防御陣地を整えると、解散の準備が進む。

 レオナールは、ケルビンの本拠地に連れて行かれることになった。


 幹線道沿いの平地に広がる大都市、エストグラード。帝都ヴォルノグラードに続く西の帝都であり、数日前には大豪商ゴールドフィンも宿泊していたはずだ。


 周囲には肥沃な大地と川が流れ、田畑が整然と広がる。帝国全体の食料を支える穀倉地帯である。

「美しい眺めだ」


 レオナールは、捕虜とは思えない扱いで、ケルビンと同じ馬車に乗っていた。

「我が所領はほとんど農地だ。オルフィン侯爵領と同じだろう」


「そうですね。ただ、少し気になることがあります。農地を見せていただけませんか?」

「馬車を止めろ!」ケルビンの一声で、馬車も隊列もぴたりと止まった。


 レオナールが有名な農学者であることは、貴族たちにも伝わっている。

 馬車を降り、畑に入ったレオナールは、植物の茎を手に取り、一本一本じっくりと観察する。


 兵士たちは隊列の中から不審そうに見つめたが、触れる者はいない。

「すいません、土を少し掘りますね」


 黒犬が待っていたかのように、彼の指示に従い土を掘ると、小さな害虫が次々と現れた。

「やはり、ノクトワームだ。しかも変異種ですね。数も多い」


「そうですか……」ケルビンは、その意味を理解できなかった。

「ほう、収穫に影響が出ていますか?」レオナールが尋ねる。


「はい、ここ数年で不作傾向が見え始めています。それも年々ひどくなっている」

 農民たちは広大な土地の管理に手一杯で、細かい害虫駆除までは手が回っていない。それでも圧倒的な収穫量で、大きな問題にはなっていなかったのだ。


「これが原因に間違いありません。今年は……不作どころか、このままでは、飢饉になるほど大きな影響が出ます」


 レオナールの言葉に、ケルビンの顔色が青ざめた。

 目の前に広がる畑が、今や静かなる危機の象徴になった瞬間だった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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