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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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219/251

姉弟

 侯城を離れた監視塔の頂にて、老執政官ウラクは風に白髪をなびかせていた。


 彼の視線の先には、大森林を縫うように進む兵の波――オルフィン軍が演習場へ向かっている。


「……これほどの規模で軍を動かすのは久しいな」

 その呟きには、長年政を担ってきた者にしかない満足感が滲んでいた。


「他の執政官たちは、どこに?」

 レオナールの問いに、ウラクは指を伸ばす。陽光を反射する甲冑をまとった二騎が、軍列の先頭に並んでいた。


「会議もせず、勝手に軍を動かすなど許されません!」

 エンジの声は烈火のごとく鋭い。

「何を言う。これはスサノオ様の御命令だ」

 掲げられた書状に、彼女は眉をひそめる。


「確かに真筆……。けれど内容は“国境警備の強化”。軍を動かせとはどこにも書かれていない」

「ならばこそ演習だ。戦も知らぬ烏合の衆を鍛えねば、国境など守れぬ」


 やがて軍は森を抜け、草原の光に包まれた演習場へと到着した。

 しかし、その光景は目を覆いたくなるほど惨憺たるものだった。


 ウラクの指摘どおり、手際は悪く、軍としてのまとまりもない。方面軍ごとに練度も技能もばらばらである。


「これで戦えるものか。前の軍司令は一体何をしていたのだ」

 ウラクの冷笑が空気を裂く。

 オダニは悔しさに唇を噛み、エンジの頬は怒りで紅潮した。


「それはあなた方が演習に反対したから! 今さら嘲笑うなんて……」

「――やめろ」

 レオナールの声が二人の間を断ち切り、重苦しい沈黙が広がった。


 執務室へ戻ったとき、彼らを待っていたのは一通の報であった。

「父、危篤。至急帰れ」

 文字を目にした瞬間、エンジの肩が震え、机に額を伏せる。


 だが顔を上げたとき、その瞳は涙ではなく決意に光っていた。

「オダニ、一緒に来て」

「俺が……? だが、あの人に嫌われている」

「違うわ! 父さんが一番気にかけていたのは、あなたよ。ひとりでやれるかって、いつも心配していた」


 弟はしばし黙し、やがて低く答えた。

「……わかった。俺も会いたい」

 そのやりとりにレオナールは目を見張る。

「まさか、二人は……姉弟なのか?」

「はは。その通りよ!」


 エンジが口を開いた。

「オダニは剣大会の勝利で新たに男爵家を興した。だが兄がすでに亡くなり、私が家を継いだのです」

 真実を知り、レオナールは静かに頷いた。


「ならば迷う理由はない。行きなさい」

「けれど、領の南端までは一日がかりです」

 オダニは、悩んでいた。


「構わぬ。今のところ怪しい影はない」

 二人は去り、残されたレオナールは夜を迎える。

 だが――翌日。


 想像もしなかった事件に、彼は巻き込まれることとなった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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