裸の王様
エンジは、彼女が執政官に選ばれた本当の理由を語った。
「私は、王国学園の生徒だったのよ」
「知りませんでした」
「父も兄も流行病で亡くなってしまったから、すぐに辞めて跡を継いだの。でもその短い間に、彼に会ったのよ」
彼とは、スサノオのことだ。彼は、親のレイラの方針で王国学園の生徒となっていたが、学ぶところがないと感じていた。まだ、彼が王になる前の話である。
「サクナの様子を見に来ていたのよ」
「知らなかったです」
「あなたたちは、仲良く園芸を楽しんでいたでしょう?」
顔を赤らめるレオナールを見て、エンジは愉快げに笑った。
「ある日、私が指導を受けている土木工学の権威である教授の元に、スサノオ様が図面を持ってやって来たの。北部の地図ね」
彼の計画は、新しく貯水池を築き、河川を改修するというものだった。この川は幾度も氾濫し、昔から人の命を奪い、家々を押し流し、肥えた農地を泥水に沈めてきた。人々の暮らしを、容赦なく踏みにじってきたのだ。
「それならば、エンジ、お前が考えてみろ!」
教授は受講生の中からエンジを指名した。
「ふん! 新入生だぞ! こんなやつに……」
スサノオは見下すように言った。
「スサノオ様、彼女は優秀ですよ!」
天才の彼からすれば、田舎から出てきたただの少女にできることは何もないと思ったが、教授の自信ありげな姿に、スサノオは興味を持った。
「いいだろう。そこまで言うなら時間をやろう」
「ありがとうございます。二週間後、再び集まりましょう!」
教授は、スサノオに礼を言った。
※
そして二週間後、三人は集まった。エンジは周囲から羨ましがられたが、それどころではない。やることが多すぎるのだ。
彼女の良いところは、誰にでも遠慮せず話を聞けるところだ。だから、東奔西走する羽目になった。
集まった時の彼女は、ボロボロの姿で、スサノオは驚いた。
「どうしたんだ、山で修行でもして来たのか?」
「いいえ、現場調査よ」
エンジは疲れた様子ながらも、胸を張って答えた。
背中の大型リュックから資料を取り出すため、整理を始める。その姿を見たスサノオは、思わず吹き出しそうになり、眉をひそめた。
リュックからは、筆記用具、地図、コンパス、雨合羽の他に、替えの衣服や下着、食べかけのパンまで出てきたのだ。
「それじゃあ、先に俺の案を説明しよう」
スサノオは、王国の役所から提出された印刷地図、清書された資料、そして大胆に赤字で書いた計画を示した。
彼は本能で違和感を感じ、教授にアドバイスを求めに来たのだが、これ以上ない完璧な案だとも思っていた。
そして、エンジは、その案に感嘆するどころか鼻で笑った。
「スサノオ様、それでは裸の王様ですよ!」
その一言に、彼は珍しく女性を鋭く睨んだ。
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