乱入者
サクナたちが買い出しから戻ると、兄とレオナールは牧場で作業着に着替え、険しい表情で議論をかわしていた。
「じゃあ、明日、獣医さんも交えて打ち合わせしましょう!」
「わかりました。それに、近くの牧場主も呼んでおきます」
「うん、それじゃ農政局で会議ね!」
レオナールは作業着のまま家に向かおうとした。
「執政官、それだと家が汚れますよ」
「構わないわ。洗い場もあるし、これからは私も手伝うから」
「でも、匂いも……」
「ははは、仕方ないじゃない」
サクナの園芸部の域に留まらない、本格的な農作業スキル。買い出しでその腕前ははっきりわかっていた。
※
その夜、マクラーレン家で急遽歓迎会が開かれた。
「まさか、我がマクラーレン領にお嬢様が居を構えてくださるとは…光栄です」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします!」
素朴な家庭料理だが、新鮮な野菜やフルーツの味は格別だった。
「でも、レオナール様が農政局に行く間は、どうされますか?」
「もちろん、一緒に行きますよ。秘書になりますから」
レオナールは目を丸くした。
「え……?」
「心配しないで、レオ。家のことは執事やメイドに任せるから」
実はサクナはキャラバンに紛れ、護衛騎士団と共に移動してきていた。
「だから、残りの家も買い取るわ。使いやすさを考えたら、新しく宿舎を作ろうかしら……」
「それなら、私が設計したいです!」カシスが元気に言い出した。
「そうね、そうしましょう」
兄はレオナールと牧畜の話に花を咲かせ、マクラーレン卿はオダニと古い戦争の話。
カシスはサクナにべったりくっつき、王都の話を興味津々で聞いていた。
そのとき、一人の騎士が現れた。
「申し訳ありません。重要なお客様と会食中でして、お通しできません!」
だが、アオイ伯爵の息子・タリオンは、執事長を押しのけて堂々と入室した。
「お前、俺が誰か知ってるだろう? 俺より重要な客がいるわけないだろ! どけ!」
「カシス、大事な話がある。時間をくれ!」
「おい、タリオン! 今は会食中だ。後にしろ! すぐ出て行け!」
マクラーレン卿が怒りを押さえつつ、タリオンの胸を押す。
「執政官との会食なら、いつでもできるでしょう?」
タリオンは会食相手の一人レオナールを見つけて言った。
「ふざけるな、お前にカシスをやるとは言ってないぞ! 出ていけ!」
カシスの兄も声を上げる。
だが、タリオンは去ろうとせず、顔色は悪く追い詰められた様子だった。
レオナールは、彼の以前見た傲慢な態度との違いに驚いている。
快活なカシスも、どうしたらいいか戸惑っていた。
「カシス、話をして来なさい! 待ってるわ」
その声は、ナクサに姿を変えたサクナの声だった。
「ありがとう!」
カシスはタリオンの手を取り、部屋を出て行った。
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