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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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210/251

聖王国のサクナ

「これで一安心です、助かりました。ゴールドハルト殿」

「レオナールは、相変わらず心配症だな。後で、歓迎会でもしてくれ!」

「何を言ってるんですか? ゴールドハルト商会長の歓迎会は、我らツーソンの商人がやりますよ!」


まるで子犬が尻尾を振りながら甘えて吠えるように、挨拶の列を作る商人たちが言った。

「わかったよ。じゃあ、明日にでも仕事場に行くよ」

「お待ちしてます!」


話を終えたレオナールに、オダニが小声で耳打ちする。

「執政官殿、大事なことを忘れてませんか。家を見学しないと!」

「そうですよ! 簡単ですが、清掃も終わっていますし」


屋台で買ったと思しきりんご飴を頬張りながら、カシスが笑った。

「ああ、行こうか」


町の中心では、冒険者の東方旅団の団員たちが、子供や町民に囲まれてサインをねだられていた。

レオナールが立ち去ろうとしたところに、二人の冒険者が挨拶にやって来る。


「おい、レオナール、久しぶりだな!」

一人の男は、彼の王国学院での同級生だった。

「カーチス。見違えたよ。東方旅団の一員になったとは聞いていたよ」

「ああ、なんとか合格できてね。まあ、下っ端の雑用だが勉強になるよ」

「それは良かった」


もう一人、異質な雰囲気を纏う女性をカーチスが紹介する。

「今回特別に同行しているナクサさんだ。聖王国から来た賓客だ」

「よろしくお願いします、レオナールさん」

「どうも……」


すぐにわかった。幻影魔術で違う容姿を生み出しているのだ。オダニも気づいている。

「ああ、聖王国の方ですので。意味はわかりますよね?」


カーチスは追求を避けるように目を逸らすが、レオナールは「騙されているのは彼の方だろうな」と悟った。


「本当は、美人な方なのかしら。どう思う、執政官?」

カシスがレオナールの服を引っ張りながら囁く。ナクサは見た目こそ素朴な田舎娘風だが、どこか凛とした気品を漂わせている。


ばしっ――カシスの手に静電気が走る。


「私の容姿はともかく、あまり殿方に触れるのは、見苦しいですね」

「い、いや、これは仲が良いので、つい……」

「つい……ですか。ふふ、面白いですね」


まずい、ナクサの機嫌を損ねかけた。

オダニがすかさず空気を切り替える。

「それでは、私たちは用事がありますのでこれで……」

「せっかくツーソンに来たのです。レオナールさんに案内してもらいましょう」


「すいません。本日、執政官殿の住まいの受け渡しがありまして……」

だが、言い訳は通じない。

「それは興味がありますね。ご一緒します」


カーチスは慌てて焦る。

「ナクサさん、それは迷惑を……」

「構いませんよ。行きましょう、ナクサさん」


レオナールは微笑む。ここで断る選択肢など考えられない。

「少しお待ちください。団長の確認を取ってきます」

カーチスは焦って走っていった。


「乗って待ちましょう!」

ナクサはレオナールを無理矢理、馬車にエスコートした。その微笑には、単なる優しさ以上の力強さが宿っていた。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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