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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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208/251

ゴールドハルト


「そんなことがあったんですか?」

 レオナールは、オダニに案内されながら、これから住む予定の貸家へと向かっていた。


「どうします?」

「別に大げさなことはしません。ただ、納品を頼んであるマミヤ商会の様子を見に行きましょう」

「了解です」

 市場の一角にあるマミヤ商会の周りには、他商会の監視役が目を光らせていた。


「こんにちは」

 声をかけても、マミヤ本人はなかなか出てこない。

「ああ……なんだ、執政官か。やっと昼飯にありついたところだよ。上等な野菜はもう残っちゃいないね。明日おいで!」

 バックヤードの仕切りから顔を出したのは、白髪の女商人だった。


「違うんです。手配をお願いした品の件は?」

「無いね」

 彼女は、あっさり首を振った。

「お前を信じて依頼したんだぞ! 婆さん!」

 オダニが声を荒げる。レオナールは慌てて彼を宥めた。


「まったく、気の短い番犬だね。……ちょっと待ってな」

 マミヤは奥へ引っ込み、小ぶりな鞄を抱えて戻ってきた。

「店を空けると何が起こるかわからないからね――火事や泥棒とかさ。さあ、ついてきな」


「倉庫ですか?」

「違う違う。この街でそんな無茶できるもんか。あ、馬車を隠してたんだ。悪いけど乗せてってくれないか?」

 レオナールにも、周囲の監視の視線が突き刺さっているのが分かった。


 大通りに停めてあった馬車の見張りの子供に小銭を渡すと、オダニは素早く御者席に乗り込む。

「じゃあ、執政官様の馬車にお乗りな。行き先は?」


「王都への道だ」

 客室に二人を乗せ、馬車は走り出した。

「要らぬ心配でしたね」

 レオナールは、対面のマミヤに微笑みかけた。


「ああ、だが思ったより邪魔が多くてな。だが、わしにも伝手ってものがある」

「さすがです。そうでなければ新しい肥料なんて、そうそう手に入りませんからね」

 レオナールが笑うと、マミヤは口の端を上げた。


「ふっ。よく言うよ。お前の許可が無いと売れない、と言われたぞ」

「ただ、信頼できる相手に売れとお願いしただけです」

「ところで、どこまで行くんだ?」

 御者席からオダニが声をかける。


「さあ」

「さあって……」

「いや、ここで止めてくれ」

 前方から大きなキャラバン隊が近づいてきた。屈強な冒険者たちが警護している。


「おーい! ワシじゃ!」

 老人とは思えぬ軽やかさで客室から飛び降りると、マミヤは道の中央で大きく手を振った。

 キャラバンはオダニの馬車に並び、歩みを止める。


「マミヤ殿に、わざわざお出迎えいただけるとは!」

「ああ、待ちきれん若造が多くてな」

「無理もない。量が桁違いだ。ワシは、久しぶりにマミヤ殿と飲めるのが楽しみでな」

 髭面の首領格の老人が豪快に笑った。


「誰なんだ?」

 レオナールから、その名を聞いたオダニの目が見開かれる。

「あの男は――レイラ様を支えたことで知られる、大陸一の豪商ゴールドハルト」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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