商人たちの逆襲
「それでは、また」
二つの軍は、競うように侯都シュベルトへ続く坂を駆け上がっていった。
「さて。我々も行きましょう」
レオナールたちはツーソンの街へ足を踏み入れた。土の道を荷馬車が行き交い、露店からは瑞々しい果物の香りが漂う。街には交易都市ならではの活気が満ちていた。
「ご自宅に荷を運びます。場所はどちらです?」
「しまった。屋敷探しはカリスに任せたままだ。条件は――庭のある一軒家、だけだ」
「承知しました。ひとまず執政官様はホテルで荷物をまとめて待っていて下さい。聞いてきます」
「お願いします」
馬車が停まる。オダニは彼をホテルで降ろすと、農政局へと向かった。
バン、と扉が弾ける音が廊下に響く。
「カリス! いるか? 執政官様の屋敷はどこだ!」
紙とインクの匂いがこもる室内では、職員たちが商人の群れに押され気味になっていた。
「これはこれは、オダニ殿」
「マルコー商会長だな。他の面々も勢揃いで……何の用だ?」
「聞いてくださいよ!」
恰幅のいいマルコーが唾を飛ばす。
「農政局の注文が、我が商会に回ってこない! あんな小商会に回すとは何事だ。私は直々に接客したんだぞ!」
周囲の商人も「そうだ」「不当だ」と囃し立てる。
オダニは鼻で笑った。
「お前と話すと買わにゃならんのか? なら話す価値はない。――帰れ」
一言で空気が凍る。
「まだ居座るのか? 邪魔だ」
手が剣の柄に触れた瞬間、カリスが慌てて飛び込んだ。
「待ってくださいオダニ様! ここ役所ですから!」
青ざめつつも、マルコーは負けじと吐き捨てる。
「弱小商会じゃ品は揃わん! どうせ泣きつくのはそっちだ! ――執政官を首になった男が、威張るな!」
爪先だけ残して踵を返す。取り巻きも蜘蛛の子を散らすように退いた。
「そんなことより屋敷だ、カリス。どうなってる?」
「あ、いけなーい。屋敷は押さえてありますが、掃除がまだで……。場所はここです」
カリスは素早く地図を描き、オダニに渡す。
「ところでオダニ様、本日は――」。
「ああ、挨拶が遅れた。レオナール執政官の警備役になった。よろしくな」
「はぁぁぁぁ!?」
騒ぎを聞きつけ、隣の内務局から現れたイズモが悲鳴のような声を上げた。室内の役人たちも無言で激しく頷く――顔に「よりによってあなたか」と書いてある。
「そんなに驚くことか、イズモ執政官?」
「……いや……面白い」
「カリス、悪いが俺の家も手配しといてくれ。場所は……」
オダニは再び、レオナールを迎えにホテルに向かった。
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