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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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206/251

腕輪の光と東部の獣


 南から姿を現した軍勢も、同じ紋章を掲げていた。――オルフィン侯爵軍の一派である。

「……あれは東部方面軍か。あまり見かけぬ顔ぶれだな」


 北部方面軍が規律で固められた鉄の軍なら、東部はその逆。武具はばらばら、隊列も乱れがち。だが、その足取りは軽快で、まるで獣の群れが野を駆けるかのようだった。


「東部は元冒険者の寄せ集めです。普段はカラドゥム山脈からあふれる魔物討伐に追われ、他の地に出張ってくることは滅多にありません」


 オダニが低く告げる。だが彼らの到着は、レオナールの予想をはるかに上回る速さだった。個々の能力が桁違いである証左である。


 森の狩人を思わせる装いの男が馬を降り、歩み寄る。東部方面軍を束ねる司令官、トウノだ。

「おお……やはりオダニ殿。キタノも久しいな」

「トウノ司令官。こちらが我が主、レオナール執政官です」


 誇らしげに告げるオダニ。その一言に、兵たちはざわめいた。猛々しい武人オダニが、か弱く見える青年を“主”と仰ぐ理由など誰も想像できなかったのだ。


 トウノは鋭い視線でレオナールを射抜く。否、それはただの目つきではない。《鑑定》のスキルが放たれていた。


 だが――レオナールの手首に巻かれた腕輪が淡く光り、術をはね返す。

「……ほう」

 目をわずかに見開くトウノ。その光は単なる魔具の輝きにとどまらず、周囲に異様な気配を呼び起こした。


「無礼を働くか!」

 オダニが剣の柄に手をかけ、レオナールの前に躍り出る。

「いや……つい自然に出てしまった。悪意はない」

 トウノの声は不自然なほど取り繕われていた。

 レオナールが静かに手を差し伸べる。


「やめて下さい、オダニ。――トウノ司令官も、今後はご注意を。この腕輪を光らせると……本当に面倒なことになりますから」 

 穏やかな口調でありながら、どこか冷ややかな響きが混じる声で、レオナールは静かに告げる。

 その言葉と同時に。


 畑に潜んでいた白鷺が一斉に羽ばたき、空を舞う烏が漆黒の輪を描く。

 道端を駆ける野犬が低く唸りながら近づく、目に見えぬ加護があることを示していた。


「……大変失礼しました」

 トウノは即座に頭を下げ、態度を改めた。その声色には、さきほどまでの傲慢さは消えていた。

「壮観ですね。これほどの大軍を目にするのは初めてです」


 話題を転じるレオナールに、トウノは頷き、自慢げに答えた。

「確かにな。今回の演習は規模が違う。何しろ、王国最大の兵力を誇る――マリスフィア侯爵軍が主導しているからな」


「……本当に、ただの演習なのですか?」

 レオナールの言葉に、場の空気が凍りつく。

「……そうだ」「そう聞いている」

 二人の司令官は声をそろえたが、その声音には迷いが混じっていた。軍事行動の気配を読み取れぬ司令官など存在しない。


「オダニ、あなたはどう見ますか?」

「……軍を動かす可能性はあります。魔物討伐ではなく、帝国への侵攻か……あるいは」

 言葉を濁すオダニ。

「スサノオ様の命令なのか……しかし」


 レオナールは低く唸った。帝国はすでに王国の属国。侵攻など本来不要のはずだ。

 ――では、侯爵の真意はどこにあるのか。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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