金のブレスレットと密談
「ふうん。オダニーだけずるい! 見せて!」
エンジは笑いながら言った。
「エンジ、遊びじゃないんだ! これは、大王様から直々のご命令なんだ!」
「オダニーったら、スサノオ様のこととなると真剣なんだから……」
「俺はいつだって本気だ!」
二人のやりとりは、見ていて微笑ましい。
「エンジさんには、サクナから、これを渡してと頼まれてた」
レオナールは、光沢のある臙脂色の布袋を丁寧に彼女に差し出した。
その手触りや重みから、高級な布であることがひと目でわかる。
「え! え! どうして、私?」
「はい。サクナは知ってましたよ、エンジさんのこと。気高い人だと。近いうちに遊びに行くから、仲良くして欲しいって」
エンジは頬を赤くして下を向いた。
「開けて見て下さい」
彼女は恐る恐る布袋を開き、取り出した。
小さな美しい花柄の金のブレスレットが入っていた。
「可愛い!」
「サクナの手作りですよ!」
「手作りなんですか? とても綺麗! オダニーつけて!」
彼女は興奮しながら、ブレスレットを袋に戻してオダニに手渡した。
「こう言うの苦手なんだよ」
だが、オダニは言葉とは裏腹に器用に、エンジの腕につけた。
「ありがと! じゃ、お茶にしましょう!」
つけられた腕輪をうっとりと眺めながら、歩き出した。
※
内務省の応接室。エンジの城だ。
彼女が帰るとメイドがお茶を出して下がった。密談の開始だ。
「そういうことね。オダニはどう思う?」
「ああ、賛成だな。しかし、奴らは反対するだろうな」
「そう。じゃあいつもの引き分けね……」
農政改革について、レオナールの説得は上手くいった。これで、賛成者は自分を入れて三人。きっと反対は、体制派の三人。
「同数ならば、国王の判断になるだろう?」
「そうなんだが、本当に、大王様に上がっているのかはわからん。奴ら、誤魔化して、廃案に持ち込む」
「そんなことはさせないよ!」
レオナールは、笑って言った。
「そうだな。レオ執政官なら、俺たちと違ってしつこそうだしな!」
「それしか、優れたものが無いからな」
「じゃあ、引越しの準備をしないとな。少しだけ時間をもらうよ」
オダニは、辞令を受ける前に動こうとしている。
「正式に辞令が出てからゆっくり来れれば……」
「何を言ってるんだ。その間に貴殿に何かあったら、まずいじゃないか!」
エンジは寂しそうな顔をしたが、何かを閃いたようだ。
「じゃあ、オダニ、準備の手伝いに行ってあげる。レオナール、明日ね!」
「おい、話の途中だぞ!」
「レオナール執政官も忙しいのよ。オダニ、最初は、ホテル暮らしだけど、最低限のものは揃えないとね!」
エンジはオダニの手を引っ張って部屋を出て行った。
「いや、内務局の仕事とか、エンジに色々聞きたかったのに」
レオナールは、諦めて、内務局の職員を代わりに呼び出した。
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