ミナグロスの喫茶店
「こういう奴だったのか……」
イズモは、レオナールの行動力と発言に驚いていた。大人しい優男だと思っていたからだ。
「それでは、農政局の購入品の件は、どうにかしましょう」
グランは、恥ずかしげもなく口にした。
見つかった隠していた予備費のこと、まるで最初から拠出するような口ぶりだ。
呆れる。これが官僚というやつだろう。
「ありがとうございます!」
レオナールは、その態度を気にしている様子も無く、満面の笑みだ。
「ですが、農政システムの改革については、執政官会議の結果次第ですから。賛成者が多数になりますかね?」
「もちろん、みんな賛成してくれますよ!」
「おいおい、俺とお前以外に、最低一人の賛成が必要だぞ! 可決するなら、二人だ」
到底、賛成者が出るとは思えない。エンジ子爵の意見は、今までは、オダニ男爵に従っていただけだ。本人には、考えがないように思える。
もちろん、現行の体制派の二人と侯爵は反対するような気がする。
「働きかけをしますから、大丈夫ですよ。それで、貸して欲しい資料なのですが……」
レオナールは、グランの嫌がる顔も、気にした様子が無く、大量の資料を俺の馬車に運ばせた。
「後で、取りに来させたらいいだろう?」
グランの発言に、彼は首を振った。
財務局を出るなり、二人は足並みを外した。
「たいしたことじゃないが、ここにも部下がいるんだ。ちょっと寄っていくよ」
グランは肩をすくめて内務局の分所へ。
レオナールは「俺は別の用事がある」と手をひらひらさせ、そのまま背を向けた。
※
ミナグロス城を出ると、指定された場所にレオナールは急いだ。
ある男と密会をする予定なのだ。待ち合わせの時間から、かなり遅れている。
「遅くなるかも、と伝言はしておいたが……」
ミナグロスの街は、古い文化の香りと、新しい店舗が調和した綺麗な街だ。
時代のある町屋を改装した、花壇の新しい喫茶店に目を止める。
「ここだ」
だが、店には、支度中の看板がかかっていた。
気にせず、店内に入る。
「いらっしゃい、何にしますか?」
いきなり若い女性店員に声をかけられた。カウンタには、中年の男。マスターだろうか。コーヒーの香ばしい匂いが漂う。
「いえ、カルマさんと待ち合わせでして……」
だが、テーブルの席を引いて、注文を待つように、促してくる店員。
「それでは、コーヒーを」
レオナールが仕方なく、注文をする。店員はその言葉を聞くと嬉しそうに微笑んで、マスターに伝えた。
マスターは手慣れた様子で、サイフォンを使い、コーヒーを淹れる。
「お待たせしました。どうぞ」女性店員がテーブルにコーヒーを置いた。
マスターが向かいの席に腰を下ろした。
「美味しいです。カルマさん」
レオナールが口を開いた。
にやりと、マスターが微笑んだ。




