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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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執政官と新農薬


「他の商店も見ましょう!」

 まるでマルコーの言葉が耳に入っていないかのように、カシスは感じた。


「失礼な態度をとる商会ですいません。クレームを入れますから……」

「いえ、カリスが謝る必要はないです。それにクレームも。無駄なところに時間を使うのはやめましょう」

 レオナールは、大通りを外れて市場の細い路地へと入った。湿った石畳に、干した薬草が微かに匂う。


 路地の奥、小さな木造の店の前で足を止める。看板には「マミヤ商店」と、色あせた金文字が彫られていた。

「すいません。少しよろしいですか?」

「ちょっと、執政官、何もこんな小さな店に……」

「いえ、品揃え、価格、品質。どれも一流品ですよ」


 彼は言い放ち、微笑んだ。

「何だい! 店先でうるさいね。痴話喧嘩なら、他所でやってくれる!」

 姿勢の良い年老いた老婆が、いつの間にか二人の前に立っていた眼光が刃物のように鋭い。


「これらの物が手配出来ないか、教えてくれないか?」

 老婆は、渡された紙をちらりと見て、にやりと笑った。


「全部はないね」

「そうか」

「少しだけ時間をくれないか。王都のつてから取り寄せる。手に入りにくい新しい農薬だからな」


 カシスは慌てて会話に割り込んだ。

「待ってください。執政官。まだ予算が取れてません!」

「ああ、マミヤさん、商品の手配と見積もりを。侯爵領の予算からしたら、たいした金額ではありません」


「ですが……」

「取れなかったら、私の貯金を使いましょう」

 サクナヒメに怒られてしまう場面が、レオナールの瞼の裏にちらついた。


「馬鹿な男だね。駆け引きもしない執政官とは、呆れるね。私が高く見積もったらどうするつもりだ?」

「そんなことは、しないですよね」


 彼は店に並ぶ商品を見ただけで、値と質をすでに見極めていた。

「ふっ。さあな。それより、新しい農薬をばら撒くとは、本当に必要あるのか? それに悪い影響が出るとも限らんぞ! 怖くて使わんだろう、農民どもは」


 老婆の言葉は、カシスの胸に巣くっていた不安そのものだった。

 謙虚そうに見えるレオナールが、自信ありげに答える。


「ですから、代替品では駄目なんですよ。調合や製法のわずかな違いが、全く別の結果を生み出しますから」

「……詳しいな。お前、何者だ?」

「名を名乗っていませんでしたね。レオナールと言います。新たに赴任した執政官です」


 老婆の眉がぴくりと動く。「……レオナール、ね」

 その声音には、思案の跡があった。

「新しい農薬ですが、既に何年も試験をして完成したものです。特に成長を促進するものではありません」


「はあ、じゃあ、何のために?」

「害虫対策ですよ。ちなみに、この農薬の処方を考えた一人は私です」


 老婆は怪訝な表情を浮かべた。

「お前は、この地に疫害がおきるとでもいうのか?」

「数年のうちに……」

 レオナールは、預言のように、静かに呟いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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