マルコー商会
農政局の職員と話をして、新たに必要な器具や、今後、大量に購入する農薬の費用の話になった。
「商会に見積もりをとりましょう」
レオナールは提案した。
「ですが、予算はありませんよ!」
職員たちは口を揃えて反対をした。
「いえ、予算を取るための見積もりですから。皆さんは、なぜ必要なのか資料を作って下さい」
「わかりました」
職員たちは、元気に返事をした。
「それじゃあ、カシスさん。商会に行きましょう」
彼は、購入予定品を書いた紙を手に取り、出かけようとした。
「執政官様、呼びつければ商会が来ますよ」
「いえ、どんな商会か、見に行きたいんです」
「それでは準備します」
カシスが、馬を取りに行こうとするのを、慌てて止めた。町の中を爆走することを考えると顔が青ざめる。
「近いですから歩いて行きましょう」
レオナールとカシスは、市場の中にある商会の事務所に向かった。
市場に並ぶ果物や野菜、農具や肥料などを見ては、店員と話す。
「執政官、これでは、いつまで経っても着きませんよ」
カシスは呆れて、溜息をついた。
「これも、仕事です。市場視察ですよ。ここですね、マルコー商会」
「はい、ここです。やっと着きました」
彼女の首には、薄らと汗が滲んでいた。
彼は、広い店先に並ぶ物を眺めていると、店の奥から、商会長らしい着飾った小太りの男が、擦り手で現れた。
「これは、カシス様。こちらの方は?」
「レオナール執政官様です」
「ほお、わざわざ。こちらから行きましたものを」
マルコー商会長は、レオナールを見定めるように眺めた。
「新任のレオナールです。よろしく」
握手の手を差し出した。
「こちらこそ。オルフィン侯爵様始め、アオイ伯爵様にも可愛がってもらっております」
「そうですか……」
「はい。この市場の会長もやっておりますので、商人を集合させましょうか?」
そういうと、やっとレオナールの手を握り返した。
「いえ、それには及びません。これらの物が手配出来ますか?」
彼はメモを手渡した。マルコーは一瞥すると、調べさせますと言って控えていた店員に渡した。
「それはそうと、アオイ伯爵のご子息と婚約するとお聞きしましたよ? カシス様」
「それは、デマです。そんなことありません」
「もしそうなら、玉の輿ですね」
マルコーは、カシスの嫌そうな顔を見て愉悦の表情を浮かべた。
しばらくして、店員が帰ってきて、マルコーに耳打ちした。
「レオナール執政官殿。困りますなぁ。農政局の奴らのリストをそのまま出されても。手に入らないものがありますよ」
「ああ、そうですか。リストは私が書いたんですよ」
「はっ。じゃあ、こちらで代わりの良い物を準備してあげますよ。オルフィン一の大商会がね」
マルコーは、レオナールを見下して呟いた。
「いえ、入りません。行こう、カシス」
「は、はい」
足早に去るレオナールに、慌てて後をついて行くカシス。
「素人にも困ったもんだ。丁寧に教えてやってるのに……」
マルコーの大声の呟きが聞こえてきた。
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