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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
サクナヒメ・ノクスフォードのリベリオン

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188/251

レオナール・ノクスフォード

特別編です。お盆集中連載いたします。

レイラが旅立って、数年後の春――。

 隣国の大国、帝国では、アレクセイ皇帝が体調を崩し、退位するとの噂が流れていた。


 その最中、王国の東方を守るオルフェン侯爵領に、サクナヒメの婚約者であるレオナール・ノクスフォードが、執政官の一人として赴任した。

 *


「なんであいつが、サクナヒメの婚約者なんだよ! あんな凡人が……」

「聞いたか? スサノオ様の前で気絶して、お漏らししたらしいぞ!」


 王立学園時代、レオナールへの風当たりは強かった。

 彼は身分も低く、武にも智にも秀でてはいなかった。

 サクナヒメの方が、いや――間違いなく強く、頭も良かった。それは、レイラによる英才教育と、スサノオとの冒険の賜物だった。


 貴族の一部は露骨な嫌がらせを仕掛けたが、彼は気にする様子もなかった。

 ある日、泥を塗られた彼の服を見て、サクナヒメは言った。


「変なことする奴がいたら、私に言って!」

「サクナ、君が汚れてしまう……!」

「大丈夫よ。園芸用の服だもの」

「そっか。それじゃ、まず花壇を整えよう。終わったら、実験畑を見に行く」


 その姿を遠目に見ていた貴族の生徒たちは、まるで農民だと嘲った。

 だが、レオナールはまっすぐ歩いていった。黙って、まっすぐに。


 *

 時が流れ、オルフェン侯爵は代替わりしていた。

 新たな侯爵はレオナールと王立学園で同期だった男であり、数少ない理解者の一人だった。


「ぜひ、遊びに来てほしい。俺の領地は広いぞ。王都どころか、王国でも屈指の穀倉地帯だ。秋になれば、侯都の丘から一面の黄金が見える」

「ああ、ぜひ伺わせてもらうよ」


 農業政策を専攻していたレオナールは、役所に入ってすぐ、小さな侯爵領の農政官として地道に実績を積んだ。そしてついに、オルフェン侯爵領に赴任する日が来た。


「やっと来れたよ!」

「よく来たな。この侯領にとって、農業は命だ。よろしく頼むぞ。ここでゆっくり、骨を休めてくれ」

「ありがとう。だけど……俺は執政官として来た。農政も含めて、領内すべてに目を通すつもりだ」


 その言葉を聞いたオルフェン侯爵の表情が、わずかに翳った。

「そんな必要はないさ。執政官は君だけじゃない。信頼できる者たちが、それぞれの分野を担っている。役割分担があるんだよ」

「でも……大王様に、すべてを見てこいと言われたんだ」


 争うつもりはなかった。だが、赴任前にスサノオに直接命じられた言葉は、軽んじられるものではない。


 ――あの方の命に背く。それが、何よりも怖い。

「そんなの……いや、なら、先輩の執政官に学べばいいだろう。しばらくは見て覚えるんだ」

「……わかった。ありがとう」

 レオナールは素直に頭を下げた。


 だが、その瞬間。オルフェン侯爵の顔に、わずかに歪んだ、邪悪な笑みが浮かんでいた。


新作 リリカ・ノクスフォードのリベリオン。も是非ご一読下さい。

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