表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

187/251

祈り

最期の刻が来た。


「思っていたより、長く生きられたわ。……ありがとね、スサノオ」


「……」


「母さん、あの家に帰りたい。眠くなってきたの」


優しいあの子のことだ。――きっと、私の最後の我儘を、黙って聞いてくれるだろう。


レイラは、俺の腕の中にいた。

その身体は静かに呼吸していて、けれどどこか、今にも消えてしまいそうな儚さを帯びていた。


「リド……眠くなってきたわ」


「うん。安心して眠っていいよ。起こしてあげる。もちろん、朝食も作っておくから」


「ふふ……ありがとう」


彼女はゆっくりと、まぶたを閉じていく。だが、本心ではまだ目を閉じたくないらしく、名残惜しげに俺の顔を見つめた。


俺はその視線に応え、そっと唇を重ねた。

冷たい口づけだった。涙が頬を伝い、彼女の肌に落ちた。

……それが、彼女の頬に触れた最後の温もりだった。



俺は、大森林の石碑の前に立っていた。


傍にはスサノオ、ティア、そして“森の魔女”がいる。

他の仲間たちには、すでに別れを告げてきた。修行と巡礼を兼ねて、大陸中を旅していたのだ。


サクナはすでに亡くなり、ノクスフォード侯爵領、シュバルトの東方聖教会の墓地に、夫のレオナールと共に葬られている。


「西方聖教会にしておけばいいのに」


ノクスは不満げに呟いたが、こればかりは仕方がない。

あのふたりは、最期まで寄り添い合う夫婦だった。


「……娘を見送るのは、辛いものだな」


俺が呟くと、珍しくノクスは茶化さずに頷いた。

彼女もまた、ナッシュとナナ――大切な者たちを、見送ってきたのだ。



スサノオは王位を退き、今は大森林の北の塔で、“森の魔女”と穏やかに暮らしている。

幾度もの悪魔の侵攻を退け、もはや奴らが地上に姿を見せることはない。


「父さん、収納魔道具は持ったかい?」


「ああ、大丈夫だ」


「中身はここからでも補充できる。欲しいものがあったら、すぐに言ってくれ!」


ティアが、俺に付いていきたいとせがむ。

スサノオもノクスも、同じように俺を見つめていた。


――だが、すべて断った。


「これからも、見守っていてほしいんだ。……サクナの子孫を」


それに、これは俺自身の我儘だ。



そのとき、ティアが天を仰ぎ、大きく咆哮した。


轟くその声は、大森林全体に響き渡り――

たちまち木々が白く凍りつき、霧が銀白の氷雪へと変わっていく。


一瞬にして、森が静寂と凛とした冷気に包まれた。

この世のものとは思えない荘厳な光景に、俺はただ息を呑み、空を仰いだ。


そのとき――

耳の奥に、レイラの声が微かに響いた。


『貴方が生きてくれることが……いちばん大切なのよ』


『これで、この世界を永遠に平和にできる』


あの日、子どもだった俺が、わざと手を抜いてゲームに勝たせたとき――

それを見抜いて、膨れっ面をしていたレイラの顔が、瞼の裏に浮かぶ。


「お前のいない世界は……とても、寒いよ」


俺は石碑に手をかけ、それをゆっくりと引き抜いた。

現れる魔物を軽く斬り伏せ、そのまま静かに、地下迷宮の入り口へと足を踏み入れる。


「――じゃあ、行ってくるよ」


黄泉の国へ。

ありがとうございました。

サクナの子孫、サクナ・ノクスフォードのリベリオン新作投稿してます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ