表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/251

黒き髪、白き日


  サクナは、スサノオが迎えに来ると、晴れやかな顔で出かけていった。


「先に行ってます。でも、母さんは体調に気をつけて、ゆっくり来てね」


 兄妹の小旅行を、ふたりは心から楽しみにしているようだった。


 ——そして、約束の日がやってきた。


 俺はレイラを抱き上げ、ティアとともに、聖教会の総本山へ向かう。


 セーヴァスに再建されたこの場所は、今では数十の教会の中枢となり、白亜の石壁が穏やかな陽光を照り返していた。


「……久しぶりね。懐かしいわ。ずいぶん綺麗になったのね」

「……ああ。あの時は、本当に……いろいろあったな」


 式は質素ながらも、静謐で清らかな空気に包まれていた。


 ルクス聖女のもと、鐘が鳴り響くと、招かれた人々が一斉に顔を上げる。


 貴族も魔女たちも——俺の知る限りの縁が、そこに集っていた。

 結婚するのは——まさかの、ナッシュとナナだった。


「おい……兄妹じゃなかったか?」

「血は繋がってませんよ。孤児院の兄妹です」

「ああ……そうか。おめでとう……!」


 どうやら、その事実を知らなかったのは俺だけだったらしい。

 あの幼かったふたりも、もう立派な青年と女性に育っていた。


 最初は式を挙げるつもりはなかったという。

 けれど、ナナのお腹に子が宿り——皆の後押しもあって、この日が叶ったのだ。


 俺は、込み上げる涙をこらえながら、ふたりの姿を見守っていた。


 レイラは、サクナが付き添って控室から式を眺めているはずだ。


 静かな光の中で、彼女は今、どんな気持ちでこの日を見ているのだろうか——


 そのとき、スサノオが俺のもとへやって来た。

「……どうした? 何かあったのか?」

「父さん。……着替えの時間です」


 案内された部屋には、真新しい白の礼服が整えられていた。


「母さんの支度は、レジーナさんとセオリツ、それからサクナが見てくれてます」

「……今さら、だな」

「ええ。今さらですが」


 俺は、深く息を吸い込む。


 “今さら”——この言葉の重さを、俺たちは誰よりも知っている。


「じゃあ……俺が、連れて行く」


 俺は、純白のドレスを纏ったレイラを、両腕にそっと抱き上げた。

 控室の扉が開く。


 参列者の視線が一斉にこちらへ注がれ、ざわめきがすっと消えていく。


 人々が静かに道を開き、俺はその間を、ゆっくりと歩き出した。


 教会のステンドグラスが、虹色の光を彼女の黒髪に落とす。

 まるで、時間がその瞬間だけ凍りついたようだった。


「……降ろして。少しくらい、歩けるわよ」

 レイラが小さな声で言う。


 けれど俺は、何も言わず、その体をさらに強く抱きしめた。


「もう……こんなに歳をとって……今さら……」


 レイラは、頬を染めて、そっと視線を伏せる。

 俺は、微笑んで彼女に囁いた。




「何を言ってるんだ。お前は今でも——世界一、美しいよ」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ