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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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スサノオの木


 魔女の塔で一泊した次の日――。

 リドリーとスサノオの親子は、大森林へと植樹に出かけることになった。山火事に見舞われた森の一部を、再び命の地へと還すために。


「記念になるし、きっと将来、誰かの役に立つからね!」

「母さんは来ないの?」

「ええ、少し……森の魔女様とお話があるの」


 スサノオは残念そうに唇を尖らせたが、リドリーに「行くぞ」と声をかけられると、しぶしぶ頷いた。


「サクナを、守ってね」

 私の言葉に、スサノオは小さく胸を張り、「もちろんです」と応えた。


 サクナを背負い、クシナダヒメの背に乗る。リドリーもまた、ティアに跨がり、空へと舞い上がった。


「それで……魔女様。お話とは?」

「……本来は、わしが口を出すことではないのだがな。お前の寿命のことじゃ」

「ああ……やはり、そのことですね」


 私は、なんとなく――いや、確かに気づいていた。

 この世界に生きる者たちの寿命は、魔力の量と深く結びついている。

 魔力を多く持つ者は悠久を生き、少ない者は、そうではない。


「お前は、この世界の“外”の存在じゃ。だから、どうなるのか……わしにもわからん」


 リドリーの父もまた、この世界の理から外れた存在だった。だが彼には、あふれるほどの魔力があった。


……それでも、殺されてしまったから、比較にはならない。


 そして私は、魔力を――まったく持っていない。

「ええ。でも……きっと、長くはないと思います」

「リドリーやスサノオは、人の何倍も、何十倍も生きていくでしょうから」


 私は、少しだけ笑った。さびしいはずなのに、胸の奥が、なぜか温かかった。


「お前はこの世界の“安全装置”。だが、その力は息子に受け継がれた。そして、役目も」


「それで、構いません。リドリーが寂しくならないように。スサノオが、悲しまないように」


 私は魔女に向き直り、まっすぐに言葉を紡いだ。

「どうか……お願いです。魔女様。見守ってやってください」


 魔女はしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめ、小さくため息をついた。


「……つまらんことを言ったな。未練がましくこの森にとどまる、古い魔女のくだらん独り言だ」

 けれど、静かな目で続けた。


「だが、お前の代わりは、どこにもおらん。……どうか、体を――大事にしろよ」



 森の中に、静かな風が吹いていた。

 遠くでドラゴンの咆哮が響き、世界でいちばん穏やかな静寂が、森を包んでいた。


「あ、母さん!」


 小さなスコップを手に、サクナと遊んでいたスサノオが、私の姿を見つけて駆けてくる。


 リドリーもすぐに気づき、まっすぐ歩み寄ってきたかと思えば、いきなり私を抱きしめた。

「……こんなところで、何やってるんだよ。もう、子どもじゃないんだから」

 私は彼のおでこを、そっと指で弾いた。


「……なんかさ。遠くに行っちゃう気がしてな」

「ばかね。私も――植えるわ」


 その日、森の土に埋めた苗木は、小さな命の約束となった。


 そしてそれは、いつか――


 この森でいちばん、大きな大木になる。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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