表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/181

サクナヒメ誕生日

 ようやく腰を下ろしたところで、俺は本題に切り込んだ。


「それで……スサノオが大変って話は?」


 魔女はティーカップをそっと置き、ちらりと隣の扉を見た。


「そっちの部屋に籠もっておるよ」


「魔女様、スサノオの部屋を見てもよろしいですか?」


 レイラがすぐに尋ねると、

「ああ、構わんよ。案内しよう。廊下の先の部屋じゃ」


 魔女が自ら立ち上がり、俺たちを奥へ導いた。


 そして、扉を開けた先に――俺の想像を遥かに超えた空間が広がっていた。大理石の床に、ふかふかの絨毯。重厚なベッドに、繊細な木彫りの棚。


 机の上には精巧な魔道具らしきものが並び、壁一面には本棚がびっしりと埋め尽くされている。


 棚には動物の置物や、丁寧に手入れされたおもちゃまであった。


 まるで、王族か賢者の私室のようだった。

「……素敵な部屋ですね。羨ましいくらい立派です」

 レイラがぽつりと呟くと、魔女が満足げに微笑んだ。


「そうじゃろう、ふふふ」

 俺はというと、心の奥が妙にむず痒くなっていた。


「……俺の修行部屋なんて、ベッドすらなかったのに……」

 そのぼやきを聞いて、魔女がニヤリと笑った。


「力のある者には、智も情も必要じゃ。お前が登ってきた塔じゃが、スサノオとかかった時間は、実はあまり変わらんぞ?」

「……は?」

「塔の仕掛けに、お前は気づかなかったじゃろ?」

「仕掛け……あったのか?」

「うむ。スサノオはすぐに見破ったぞ。回転する壁を使って上層へ転移してな。あとは魔力を応用して……」


「まじか……」思わず天井を仰いだ。

「負けたわ……完全に……」

「ふふっ、気づくこともまた力じゃからな。――さ、応接に戻ろうか。そろそろ、あいつが出てくるころじゃ」


 再び扉を開けると、中から――


 ぶかぶかの白いコック服に身を包んだスサノオが、しっかりと立っていた。


「お父さん。お母さん。そしてサクナ。今日は……サクナの誕生日です。僕が心を込めて作りました。どうか、食べてください」


――これだけのために、俺たちは呼ばれたらしい。


 スサノオの心のこもった料理を堪能させてもらった。


 サクナはまだ言葉を話せないが、じっと料理を見つめ、小さな手を動かして何かを伝えようとしているようだった。眠たげな表情を見せつつも、静かにその場にいる。


「そろそろ、おいとまを――」

「せっかくだ。泊まっていけ!」

 魔女が陽気に声をかける。


「そうするわ。スサノオ、久しぶりに私が勉強を見るわね」


 レイラは笑顔でサクナヒメを連れて、スサノオの部屋へと向かっていった。


 俺は、手持ちぶたさになった。


「……まあ、酒でも飲もうか」

 魔女が俺に杯を差し出す。俺たちが持ってきたワインだ。


「どうした。落ち込んでいるのか?」

「まあな。立派な息子すぎて、どうしていいかわからん……」


「何を言っておる。スサノオのやってることは、お前がやってきたことと同じじゃろう。お前はレイラを守り、飯を作ってた。――あの子は、それを真似てるだけじゃ」


「……そうか。そうだと……嬉しいな」

 ちらりと覗くと、スサノオがサクナに絵本を読んでやりながら、レイラに頭を撫でられていた。


「もう少し、飲ませてもらおうか。……親父の話、聞かせてくれないか?」


「ああ、話してやろう」


 大森林の魔女は、深い瞳を湛えて、ゆっくりと杯を傾けた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ