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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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魔女の招待状

 大森林の魔女から、連絡が入ったのは、それから一年も経たないある日のこと。


「スサノオが大変だ、至急、レイラとサクナも連れて塔を訪ねるように」


 彼は、一度も家に顔を出していなかった。だが、モルガン家に、セオリツヒメを見に姿を現したという噂はあった。


「まあ、大森林の魔女からの依頼だから仕方がないな。さあ行こうか!」

「ちょっと、待ちなさいよ、手ぶらで行くつもり、リドリー!」

「あ、そうだな。何が喜ばれるかな?」



 大森林の北端。白い雪山に包まれた静かな森の奥に、その塔はそびえていた。


 木々よりも高く、てっぺんは雲に隠れ、まるで天を貫いているかのようだ。


 地上にある重厚な扉の前で、俺は深く息を吸い、静かに叩いた。


「リドリー一家が、大森林の魔女様のお呼びに応じて参りましたよ」


 ……応答はない。

 扉は音もなく開いた。中には、らせん状に続く石の階段。

 外観通り、相当な高さがあるようだ。俺一人ならともかく、レイラやサクナを歩かせるには難儀な道だ。


「レイラ、俺がお前たちを――」

 振り返った瞬間、そこにいたはずの二人の姿が、消えていた。

「えっ?」

「レイラたちは、上に転移させといた。せっかく来たんだ。お前は、試練の塔を登ってくるがいい」


 塔の壁を伝うように、魔女の声が響いた。

 しんと冷えた空気のなかに、それだけが鮮やかに残る。


「……おいおい。たしかに最近は運動不足だけど、だからってこれは……」

 ぼやきながらも、覚悟を決めて足を踏み出す。

「――上等だ。なら、俺の力、見せてやる!」


 一段、また一段と、階段を踏みしめる。

 塔の内部は静まり返り、石壁からは冷気がしんしんと染み込んでくる。


 その中で、ある階を越えた瞬間、不意に“それ”は現れた。

 魔物。……いや、幻影か。


 かつて倒した強敵たちの姿を模したような影が、次々と俺の前に立ちはだかった。

 剣を振るい、体をかわし、息を整えては、また登る。


 戦いは、肉体だけでなく精神も削っていく。

 登るごとに、敵は強くなる。まるで、自分の過去と向き合わされているようだった。


「はぁ、はぁ……っ、あと、少し……」

 何階登ったのか、もうわからない。

 最後の階。大きな幻影を斃し、残るはひとつ――


「どんっ!」

 力任せに扉を開けた。


「リドリー、もっと静かに開けて頂戴! 驚いてサクナが泣いてしまったわ!」

「あっ、す、すまん……」


 そこは応接室だった。


 暖かな陽が差し込み、魔女とレイラがソファに腰掛けてお茶を飲んでいる。

 呆然とする俺をよそに、レイラが優しく笑いかけてきた。


「おつかれさま。お茶、飲む?」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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