表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/179

セツリツヒメ 後

 明け方。普段ならまだ寝ている時間だが、俺は妙な胸騒ぎで目が覚めた。

 家中を呼び回っても返事はない。扉は開いており、外には足跡もなかった。

 ――雪にすべて、消されていた。


「スサノオ、どこだ……」

 いつも嫌がって着ないコートも、厚手の靴も消えている。そして、クシナダヒメも。

「まさか、レイラのところか?」

 不安が胸を締めつける。俺は怒られるのを承知で、王都にいるレイラへ通信用の魔道具で連絡を入れた。


「もう、寝てたんだけど……リド。どうしたの?」

「ああ、スサノオが……いなくなった」

 俺の慌てた声に、レイラは涙を浮かべるほど笑った。

「あの子が家出なんかする? きっと、どこかに出かけたんでしょ」

「じゃあ、そっちに……?」

「残念だけど来てないわ。クシナダヒメが迷うとも思えないけど」


 そう話していたところで、モルガンから緊急の連絡が入った。レジーナからも、レイラ宛に同様の連絡があったようだ。

「リドリー様……実は、私とレジーナが昨夜から魔物討伐で家を空けていた間に、大変な事件が起きました」

「……何があった?」

「我が家が襲撃を受けました。そして、町では多くの者が殺されていました」


 その時だった。

 クシナダヒメに乗ったスサノオが、上空から島へ舞い戻ってきた。

 半笑いを浮かべ、血に染まった剣を担いでいる。服も、顔も、返り血で真っ赤だった。

 俺は目の前が真っ暗になった。

「スサノオ、何が……」

 問いかける間もなく、魔力酔いをしたスサノオはクシナダヒメから滑り落ちた。

「危ない!」

 俺は慌てて抱きとめ、家の中へ運び、ベッドへ寝かせた。


 動揺で頭が真っ白になる。家の中を行ったり来たりしながら、何度もレイラに連絡を試みたが、会議中らしく繋がらなかった。

 スサノオの手当てをするのも忘れていた。

「大暴れしたようじゃな」


 エルダが、いつの間にか俺の前に現れていた。

「……何があった?」

 俺が尋ねると、魔女は黙って海を指差した。


 ――モルガンとレジーナの乗った船が、猛速度で島へ近づいてくる。

 船が着いた瞬間、彼らは慌ただしく駆け寄ってきた。

「リドリー様、ご無事ですか?」

「……当たり前だろ」

「いえ、スサノオ様のことです。お怪我をされていないかと」

「……あ」

 我に返り、急いで家に戻ると、エルダがすでにスサノオの魔力を抜いて眠らせていた。


「ありがとうございました。スサノオ様のおかげで、我が娘、セツリツの命が守られました」

「……え?」

「リドリー様、昨夜の襲撃は、我々に恨みを持つ盗賊の一団によるものでした。


 奴らが屋敷に押し入ろうとした時、スサノオ様が現れ……すべてを、一人で討ち果たしたそうです」

「まさか……」

「腕の立つ暗殺者たちでしたが、あの年齢で……まさに奇跡です」

 俺は、しばらく何も言えなかった。

 ――まさか、彼が……。

 それでも。俺がスサノオを疑っていたことは……死ぬまで、誰にも言わないでおこうと思った。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ