エピローグ スサノオ
ありがとうございました。最終話です。
「おい、こいつをどうにかしてくれ。うるさくてたまらん」
俺は氷雪の魔女エルダに頼んだ。
「馬鹿野郎、泣くのは文句があるからじゃろう!貸してみろ!」
「勝手に契約するんじゃないぞ!」
背負っていた息子、スサノオを渡した。
エルダの両腕に抱かれ、泣いていたスサノオは、満足したようにぴたりと泣き止んだ。
「本気か?何でだ!」
「お前から殺気が出てるからな。それより、お前は今何をしている?」
「色々と忙しいらしい。ずっと何かやっている」
レイラは氷雪島の小屋の一室にこもり、国の――いや、大陸の運営をしているようだ。
「ふうん。お前は呑気なものだな。それで、この子の守護者なんだが」
「魔女会で決まったのか?」
「ああ。わしか、ノクスに権利があると思うが、わしにはお前がおるし、ノクスは信者の数を重視しているらしい。それに、奴があのお方を拗ねさせると大変じゃしな」
あのお方とは大森林の魔女のことだ。一番力のある魔女と言っていい。
「だが、俺たちの協力はなかったぞ!」
俺は不満げに呟いた。
「お前の父の守護者だったが、お前の父を死なせてしまった。お前の父は納得していたようだが、あのお方には悔いが残っていた。そして失うことを恐れた。その気持ちは、わしにもよくわかる。守護者との契約は絶対だ。信じてみないか、お前の父の守護者を」
「そうだな」魔女たちが取り決めたことだが、あとはスサノオの意志次第だろう。
「それと、ドラゴンの雄が、大森林の魔女からノクスに渡されることになった。ティアの番だ」
「え?ドラゴンに性別があるのか?ティアは雌なのか?」
「何を今更。ティアの番だからな。最強でなければ務まらん。卵が生まれたら、スサノオの守護獣となることが決まっている」
「ティアが気に入らなければ、氷漬けになるだけだな」
「大森林の魔女が守護者となるということは、成長したら彼女の住まう塔で一人育てられるだろう。強くなるためにな」
それが定めだろう。俺がそうであったように。急に泣き虫の子が愛おしくなって、エルダから取り上げた。
「あれ、どうした?うるさいんじゃなかったのか?」
魔女は微笑んだ。
「いや、俺が間違っていたようだ」
俺は魔術師の館を後にし、ティアの待つティオスの墓へ向かった。
途中、盛んに工事が行われていた。一つは北方領土の新領主の館だ。
「リドリー様、スサノオ様!」
工事現場から声をかけてくるのはモルガンだ。妻のレジーナはレイラのそば使いをしている。
「おお、忙しそうだな」
「いえ、現場監督だけですから、ご一緒させてください」
妻のレジーナと共に、氷雪島の俺たちの小屋の隣に新しい小屋を建て、夏の間はそこに住むらしい。
ティオスの墓の隣にも、朽ちた教会の修理工事が見えた。ナッシュ兄妹とルミナがいた。ここにも西方聖教会を建設している。
彼らは気づき近づいてきた。
「ノクス、この子の守護者にはならないのか?」
俺がルクスに声をかけると、気配が変わった。
「そのことなら肩はついている。スサノオが西方聖教会の信者になれば問題ない。強いドラゴンも欲しかったからな」
「相変わらず現金な魔女だな」
「それはお主の番だろう。ティアより強いドラゴンの育成を大森林の魔女が必死にやっているぞ。マリスフィアから、大森林の森が揺れているのが見えた!ははは。ニコライからも聖教会同士の正式和解の話をもらっている」
「どれだけレイラを強請ったんだ」
アレクセイ皇帝の兄、ニコライは大司祭となり、宗教弾圧をやめようとしているらしいが、敵対勢力もあり危険だ。
マルクはナーシア砂海連邦の首長の一人になり、砂の魔女アルとバルバッドに住んでいるらしい。
「違う、ニコライの護衛をするつもりだ。なぁ、ナッシュ、ナナ」
「はい!」
すっかり俺の指示より優先されつつあるが、楽しそうなので構わない。彼らは大陸中を飛び回り布教しているらしい。
「じゃあ、また後でな」
ティオスの墓に着いた。
そこにはティアとレイラが待っていた。
俺はスサノオを抱きながら、墓参りをした。
「ティオス、お前のおかげだよ。ありがとう」
丘の上からは氷雪島が見える。
変わりゆくもの、変わらないものを感じながら、俺はレイラを見た。
彼女は優しく微笑み、言った。
「次の時代へ」
遠くから、この丘へ緑の風が流れてくる。スサノオはその気配に気づいたのか、まぶたをそっと開いた。
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