最後の戦い 決着
形勢は逆転した。
俺はレイラを背負いながら、いや――情けないが、生まれていない我が子から、わずかずつ魔力を分け与えられ、温存している。
逃げようと浮遊する魔術師を、ノクスが呪術で撃ち落とした。魔術師は死者たちの餌食となる。
「魔術師若きが、わしと勝負したいのか」
「魔女と手を組むとは、卑怯な奴らめ!」
ダークウエルは、部下たちを囮に使い、自分だけ逃げ出した。
「決着をつけてくる」
「そうじゃな。わしは王国宰相レイラ殿と、報奨と西方教会の支援について話があるからのう」
レイラは苦笑した。
「現金な魔女様だな」
俺は大魔術師を追って、地上へ出る。
そこは、晴れた日の氷雪島そのものだった。
悠々と氷雪のドラゴンが空を舞い、島のすべてが息を潜め、音ひとつない静寂に包まれていた。
ダークウエルは森を抜け、凍りついた湖の上空へと浮かび上がろうとする。
ドラゴンは人間に干渉しない。だが――
「ティア!」
俺の叫びに応え、ドラゴンが大きく羽ばたく。
その風圧で、大魔術師は吹き飛ばされ、氷上に叩きつけられた。転がるように起き上がった彼の目に、砕けたヤワタノオロチの亡骸が映る。
ティアは悪戯が成功したかのように――いや、威信を示すかのように、咆哮をあげた。
「くそが……!」
ダークウエルの顔が青ざめる。懐から転がり落ちた魔力玉が氷上で割れ、魔力が四散していく。震える指で拾おうとするが、もう手遅れだった。
俺は、静かに氷上に降り立った。
「――終わりだ」
氷雪島での修行を思い出す。我が子にもらった魔力で、大魔術師とその魔法を、一刀のもとに断った。
斬られた彼は信じられぬように目を見開き、凍てついた湖面に崩れ落ちる。全てが、終わった。
湖の対岸では、王国や帝国の兵、アレクセイやセオたちがその様子を見守っている。島ではモルガンたちが。
そして――姿を隠していた多くの魔女たちも、静かに最後の一瞬を見届けていた。
ティアが静かに俺の隣に降り立つ。鼻息を鳴らしながら、満足げに空を見上げた。
遠く、レイラが手を振っていた。
静かな湖に、歓声が響き渡った。
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