最後の戦い 反撃
「レイラ、しっかりしてくれ!」
「終わりだな。網を閉じてしまえ!」
ダークウェルが微笑みを浮かべ、生き残った部下に指示を出す。
俺は、迫ってくる魔法の網に剣を振るう。魔力の切れた剣で、ただの刃で、斬ろうとした。
――こんなもの、俺の力だけで斬れる。
「くそっ、斬れない……!」
多重化した網は分厚く、押さえつけるのがやっとだ。進行を止めるので精一杯。
それでも、セルフヒールが使えない身体は、徐々に言うことをきかなくなっていく。眠気が襲い、まぶたが重くなる。腕にも、足にも力が入らない。
俺は、レイラを抱え込んだ。
「すまない、レイラ……」
そのとき、彼女に起きている異変に気づいた。
「魔力が……ある? 僅かだが……」
まさか、彼女も魔力玉を?
驚いている暇はない。俺は、その微かな魔力を使って、レイラと自分を治癒する。
「助かった……。レイラ、お前も魔力玉を持って――」
彼女はうっすらと目を開け、気怠げに笑った。
「あいかわらず鈍感ね……。きっと、お腹にいるあなたの子の魔力よ」
「――な、なんだって……」
衝撃で、全身が震えた。
俺は何をしていたんだ。勝てると思いながら、心のどこかで諦めていた。
本当の敵は……俺自身だった。
ただがむしゃらに、馬鹿みたいに、全力で魔力を吐き出して。
師匠のティオスが見たら、墓の下で眠れやしないだろう。
俺は唇を噛みしめ、レイラを背におぶった。その体温とともに、彼女の中にいる命の魔力が、静かに流れ込んでくる。
「もう大丈夫だ。しっかり捕まっていろ!」
剣を突き出す。残った魔力を一点に集中し、網と膜に穴を開ける。
その小さな穴を、無理やりこじ開けるようにして突破する。
一瞬――。
気がつけば、なんてことはなかった。奴らの魔法の展開速度など、たかが知れている。
俺はいつの間にか、魔力に頼りすぎて、真正面から馬鹿正直に受けていただけだった。
「逃すな!」
魔術師の首領が叫び、魔法を放つ。
逃げる――そう思ったのだろう。
だが、俺の目的は違う。わざと出口に向かうフリをした。
奴らの心に、ここで仕留め損ねても「次がある」と考える慢心があるのを、感じた。
次など、あるものか。
レイラが時を戻すたび、どれだけの想いを抱えたのだろう。
生まれてこれなかった、俺たちの子――
張り裂けそうな胸の苦しみに、彼女は一人で耐えていた。
俺は、涙がこぼれるのを止められなかった。
「ノクス、起きてくれ!」
魔女のもとへ向かう。倒れている少女――ルクスを抱え、走りながら治癒を施す。
速度は落ちる。背後から、魔術師たちの魔法が迫る――と思った、その瞬間。
すべての魔法が、消えた。
俺の腕の中で、少女が魔女の姿へと戻っていた。
「降ろしてくれ。すまんかったな、不意をつかれてしもうた」
「……だが、助かった」
「ふむ。どうやら、苦戦しておるようじゃな。ひひひ……」
その時――俺が倒した魔術師の骸が、立ち上がる。
無言で立ち並ぶその“死者の壁”が、俺たちを守るように前に出た。
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