最後の戦い 魔力
剣を構える。
魔力が唸り、空気が震える。圧倒的な力がこちらに押し寄せる。
火球が、雷が、氷刃が一斉に迫る。
今までとは桁違いの威力。殺す気で放たれた全力の魔法が、容赦なく襲いかかってくる。
けれど、俺は動じない。
すぐ背後に、レイラの息遣いがある。
その小さな存在が、俺のすべて――命より重いものだ。
「――来い。全部、受け止めてやるよッ!!」
剣を振り抜いた瞬間、烈風が爆ぜ、空気が裂けた。
光と音と魔力の奔流の中、俺は――ただ、立ち塞がった。
魔術師たちから放たれる魔法を受けながら、剣で撃ち返す。だが、敵に与える損害は僅かだ。敵のかぶっている黒いマントの魔術防御が強力なのだ。やはり直接に剣で斬らなければ。
「くそ、これじゃあきりがないな」
それは、敵も同じはずだ。だが、焦った方が負けだろう。
俺たちを直接狙う攻撃の他に、いくつかの魔法が天井へ逸れているのに気がついた。
「まさか、天井の崩落を狙っているのか?」生き埋めにするつもりか?
「この地下遺跡を、お前たちの終焉の地として贈ってやろう」
ダークウエルの皮肉に満ちた声が、フードの奥から響いてくる。
あっという間に、俺の周りには、天井から落ちてきた岩場が積み上がり、包囲される。
そして、その岩場の上には、砂漠との戦闘と同じような檻が出現した。
俺たちを狙っていた魔法は止み、代わりに魔法の檻の数が増えていく。
一重、二重、三重……。
俺はその檻を斬り、紛失させるが、あっという間に再生される。
「ははは、魔力が無限なのはお前だけだと思ったのか!」
奴は懐から、膨大な魔力の詰まった玉を取り出した。
「なんだそれは?」
「かなり減ってしまったがな。オロチを育てる中で完成した魔力玉だよ。素晴らしい研究の成果だろう」
自慢げに、魔力玉を見つめて、奴は口元を歪める。
だから、モルガンたちとの激しい戦闘を経ても、まだ魔力が尽きないのか……。
「種明かしはお終いだ。さすがのお前も、魔力がほとんど残っていないだろう。やれ!」
ダークウエルが新たな指示を出すと、薬玉が次々に投げ込まれ、檻の外側に膜のような檻が形成されていく。
薬玉の正体は、ノクスを眠らせた麻痺毒か、あるいは睡眠毒の類か? いずれにせよ危険なものだ。
俺は剣で、見えない煙を吹き飛ばしている。だが、膜の檻が拡散を妨げているようで、毒が檻の内にこもってしまった。
「リド……っ」
レイラの顔が青ざめ、がくりと膝をつく。目が虚ろで、手が震えている。
薬玉の毒は、指輪では防げない。敵は、俺たちの装備を熟知しているのだ。
俺は慌ててヒールをかけようとしたが――出ない。
手が震え、喉が渇く。
……魔力が、ない。空だ。完全に、尽きた。
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