鬼ごっこ ※レイラ
私は、モルガンとレジーナを呼び寄せた。怯えた目で、次々に現れては霧のように消えていく魔女たちを見つめる二人。
その視線に気づき、大きく手招きして急がせた。
手元の二つの箱を、彼らに差し出す。
「これはあなたたちへの贈り物。さあ、受け取って。……二人とも、幸せになって。今、つけて」
箱の中には、美しい指輪が収められている。
モルガンには、深く澄んだ蒼の魔石。レジーナには、静寂の森のような翠の魔石。
「まぁ、私のよりも豪華で綺麗じゃない?」と、私が冗談めかして言うと、
「ははは、エルダ魔道具店のオーダーメイドだからな。お前にもお祝いに贈ってやるさ」
エルダが笑いながら空を仰いだ。
その視線の先――雲の切れ間に、黒い影がひとつ。じっと佇むように漂っている。
モルガンとレジーナは、指輪を恭しく指にはめた。瞬間、表情が凛と引き締まる。
足元の湖は、厚く凍りついていた。
水面の下、オロチの本体と首は断ち切られたように見えた。
その首が氷を叩き割ろうと暴れている。だが、ひびは入っても、魔女の氷は時間とともに分厚さを増していく。
「そろそろ退散させてもらおうかな」
氷雪の魔女が呟くと、彼女の魔力がふっと霧散し、気配ごと消えた。
どこか遠く、誰にも気づかれぬ場所で、次の一手を見ているのだろう。
――さすがは、古の魔女。
そして、空から湖に降り立ったのは、一人の魔術師だった。
漆黒のマント、手にした杖は見上げるほどに長く、フードの奥の顔は影に隠れて見えない。
怒りか、戸惑いか、あるいは……微笑か。
その足音が氷に響く。
「まだよ」
私はモルガンの腕に手を添え、静かに制する。
魔術師は、杖の先で氷をひとつ、こつんと叩いた。
その瞬間――氷が、真夏の光を受けて、みるみる溶けていく。
水面が再び現れ、封じられていたオロチの首が、静かに動き始めた。
けれど、魔術師はその様子すら見届けることなく、もう島へ上陸していた。
こちらを探している。
私はすぐさま、島の奥へと逃げ込む。
魔力を感じることはできても、魔力を持たない私を探し当てるのは、そう簡単ではないはずだ。
――鬼ごっこの時間よ。
逃げ込んだ先は、島の地下にある古代の遺跡。
この島の硬い岩盤に築かれた強固な壁。
オロチの侵入も、きっと防げる。
遠く、魔法のぶつかる音が響いてきた。
遺跡の最深部にいても、その凄まじさが伝わってくる。
モルガンとレジーナ……あの二人は、あの魔術師にどこまで抗えるだろうか?
私は、祈るように胸の前で指を組んだ。
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