尋問 2
「つまり、元・第一皇子である兄さんの命令だと言うのか?」とマルクが尋ねる。
「お前の口から“兄”などと。不愉快だが……まあ、許してやろう。ミハイル様のご意向だ。必要なら、書状でも見せてやるが?」
ようやく、ハーンがここまで強気だった理由が見えてきた。
「……だが、兄は病に伏しているはずだ。それに、すでに皇帝ではない」
本来、第一皇子ミハイルが帝位を継ぐはずだった。彼には支持者が多く、前皇帝の代から仕えてきた保守派の貴族たちは、こぞって彼に忠誠を誓っていたという。
カリスマ性もあると聞くが、俺たちは未だ彼の姿を直接見たことがない。
「くっ……」
ハーンは悔しさを噛み殺すように唇を噛んだ。
俺はナッシュ兄妹にハーンの屋敷を調べさせている。ルクスも同行させた。おそらく、途中で食事でもして、のんびり帰ってくるだろう。何か食べ物を頼んでおけばよかったと、今さら思う。
「だが、この命令は昨日今日の話ではない。ファウストの活動を支援せよという指示を受け、我々はそれに従って動いていたに過ぎん」
「嘘をつけ。じゃあ、なぜ魔女との契約を破った? あれは皇帝と正式に交わされた協定だったはずだ!」
魔女と皇帝家の間で長年結ばれていた不可侵協定。それを一方的に破棄するのは、州知事としての権限を明らかに超えている。
「……」
ハーンは、口を閉ざしたままだった。
仕方なく、俺たちは州兵長を別室に連れ出し、取り調べることにした。彼は、打って変わって饒舌だった。
「つまり、あの刻印はファウストの命令か?」
「ああ、魔女避けのためだと聞いた。ファウストが作った刻印で、俺たち兵士にも全員押されてる。……でもな、貧民の連中に押されたやつは、魔力を吸うって噂だ」
「目的は?」
「魔女を追い出せば、あの廃区画に眠る財宝が手に入るって……そう説明された。けど、何もなかったんだ。俺たちは、ただハーン様の命令に……お願いだ、許してくれ!」
男は今にも泣き出しそうな声で、必死に懇願してきた。
「つまり、元・第一皇子である兄さんの命令だと言うのか?」とマルクが尋ねる。
「お前の口から“兄”などと。不愉快だが……まあ、許してやろう。ミハイル様のご意向だ。必要なら、書状でも見せてやるが?」
ようやく、ハーンがここまで強気だった理由が見えてきた。
「……だが、兄は病に伏しているはずだ。それに、すでに皇帝ではない」
本来、第一皇子ミハイルが帝位を継ぐはずだった。彼には支持者が多く、前皇帝の代から仕えてきた保守派の貴族たちは、こぞって彼に忠誠を誓っていたという。
カリスマ性もあると聞くが、俺たちは未だ彼の姿を直接見たことがない。
「くっ……」
ハーンは悔しさを噛み殺すように唇を噛んだ。
俺はナッシュ兄妹にハーンの屋敷を調べさせている。ルクスも同行させた。おそらく、途中で食事でもして、のんびり帰ってくるだろう。何か食べ物を頼んでおけばよかったと、今さら思う。
「だが、この命令は昨日今日の話ではない。ファウストの活動を支援せよという指示を受け、我々はそれに従って動いていたに過ぎん」
「嘘をつけ。じゃあ、なぜ魔女との契約を破った? あれは皇帝と正式に交わされた協定だったはずだ!」
魔女と皇帝家の間で長年結ばれていた不可侵協定。それを一方的に破棄するのは、州知事としての権限を明らかに超えている。
「……」
ハーンは、口を閉ざしたままだった。
仕方なく、俺たちは州兵長を別室に連れ出し、取り調べることにした。彼は、打って変わって饒舌だった。
「つまり、あの刻印はファウストの命令か?」
「ああ、魔女避けのためだと聞いた。ファウストが作った刻印で、俺たち兵士にも全員押されてる。……でもな、貧民の連中に押されたやつは、魔力を吸うって噂だ」
「目的は?」
「魔女を追い出せば、あの廃区画に眠る財宝が手に入るって……そう説明された。けど、何もなかったんだ。俺たちは、ただハーン様の命令に……お願いだ、許してくれ!」
男は今にも泣き出しそうな声で、必死に懇願してきた。
だが、腑に落ちなかった。なぜ、そこまでして“魔女”を排除しようとする? 本当に、ただの財宝目当てか?
この刻印には、単なる抑止とは違う、搾取の意図がある。明確な意志をもって魔力を吸い上げる仕組み。
ヤワタノオロチ。あの、底知れぬ魔力の正体が見えた気がした。
魔女は、自ら牙を剥くことはなかった。そう知っていて、彼らはその優しさにつけ込んだのだ。だが――その先に待っていたのは、代償だ。
魔女の力が衰えた今、空いた隙間に悪魔が顔を出し始めている。
あの廃区画には、まだ何かがある。魔女の住む場所に、何かが。
とりあえず、全員の衣服を脱がせ、刻印を確認し、削り取ることにした。
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